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2015-04-15 10:33

(連載2)米・キューバ首脳会談とオバマ・ドクトリン

角田 勝彦  団体役員、元大使
 国内での批判は強い。例えば、共和党で大統領選出馬に意欲を示すジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は、4月12日の動画で「我々は同盟国との関係を損ない、敵をつけあがらせるオバマ=クリントンの外交政策よりもうまくやる必要がある」と批判した。ただし、関与政策はミャンマーの民主化では一定の成果を上げ、イラン核問題でも最終合意の枠組みまでたどり着いている。イランとの最終合意の期限は6月末だが、キューバとの交渉の進展はイランとの関係にも影響を与えよう。北朝鮮への影響もあろう。

 1年半とされる事前の秘密交渉、昨年12月のオバマのテレビ声明の後3回の高官協議を経て、4月11日の首脳会談が実現した訳であるが、国交正常化へのハードルはまだ高い。パナマでの首脳会談では、キューバに対する米国の「テロ支援国」指定の解除や、両国大使館の設置時期の合意には至らなかった。正常化に不可欠な米国の対キューバ経済制裁の全面解除には、米議会の承認が必要だが、多数派の共和党を中心に、根強い慎重・反対論がある。キューバの共産党独裁や、「表現の自由」への弾圧などの劣悪な人権状況が問題視されている。オバマもこれを良く承知しており、「民主主義と人権に関する懸念を提起し続ける」と語った。キューバとの国交正常化により、キューバの経済浮揚と合わせ民主化が近づけば、オバマ・ドクトリンの評価も高まろう。

 さらに、オバマ政権の国内外での指導力回復や反米と中国の進出が目立つ中南米への影響力回復など具体的成果も期待できる。国交正常化交渉には米世論の6割の支持があり、テロ支援国家の指定解除に反発する共和党への揺さぶりになることも期待できる。1994年に始まり米州35カ国で構成される米州首脳会議に、これまで米国の意向で排除されていたキューバが初めて参加したことは、出席者により一様に歓迎された。原油安によるベネズエラの国力低下もあり、反米左派(ベネズエラのほかボリビア、ニカラグア、エクアドル)の結束と影響力は弱まった。3月米国から政府関係者への制裁措置が発動されたベネズエラは、弱腰になったとの情報もある。なおニカラグアは、昨年末、建設費約6兆円をかける中国主導の約280キロの新運河の建設が始まったことが示すように、ベネズエラよりさらに中国にすり寄っている。

 米国にとって、キューバとの関係正常化は、この地域で健全な指導力を回復するための重要な要因となろう。東西冷戦の残滓整理という過去の観点のみでなく、オバマ・ドクトリンを奉じる米国の将来を判断する上でも今後の動きが注目される。(おわり)
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