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2015-04-13 12:33

「新秩序」へ日米の重い責任

鍋嶋 敬三  評論家
 安倍晋三首相が4月26日から5月3日まで米国を国賓級待遇で公式訪問する。オバマ大統領との首脳会談、上下両院合同会議で日本の首相として初の演説が最大の注目点である。アベノミクスは道半ばだが、15年に及ぶデフレ脱却で自信あふれる首相が揺らぎを増す米主導の戦後国際秩序を再構築する決意を世界に示せるかが焦点だ。その基盤となる日米同盟関係強化が訪米の主目的であり、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の18年ぶりの改定を中心とする安全保障体制、環太平洋連携協定(TPP)の交渉打開など経済関係が二本柱である。米国の世界での影響力が低下しつつある新たな国際環境が安保、経済両面で日本の関与の増大を促している。安倍首相はそれに応えなければならない。

 その前に、日米両国にとっての「戦後70年」問題がある。米国の世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」によると、第2次世界大戦中の日本の行動について米国人の6割が日本は「十分謝罪した」「謝罪の必要はない」とした半面、3割は「謝罪が不十分」と答えた。広島、長崎への原爆投下については米国人の5割以上が「正当だ」と答えたが、日本人の8割は「正当でない」とし、日米間の認識ギャップの大きさを示した。日米ともに、あの戦争が完全に「歴史」になったとは言えない。そこに同盟関係の「落とし穴」が隠れていることを注意すべきだ。日本軍によって占領された中国などアジア諸国は戦後70年の「首相談話」を占うものとして、首相のワシントン発言を注目している。米議会での演説は世界に向けて侵略戦争の反省を明確にする良い機会である。首相による真摯(しんし)で率直な言葉は米国民の対日信頼度を高め、同盟関係の深化に寄与する。世界の有力マスコミが集まるワシントンから首相発言は誇張や曲解も含めて伝えられ、ネットで全世界に拡散する。首相発言が曖昧で失望や誤解を招く内容なら非友好国に都合良く利用され、日本外交に大きな損失を招く。

 日米同盟がアジア太平洋地域の安定と繁栄の礎であり、公共財であることは論をまたない。ガイドラインの改定、切れ目のない安全保障のための法整備などが安倍政権下で進展してきた。防衛とともに経済関係での日米協力は同盟の両輪だ。世界経済の40%を占める巨大経済圏を生み出すTPP交渉の突破口を開くのは米大統領の貿易促進権限(TPA)法案の成立である。TPAがなければ国際合意が米議会で覆される恐れから交渉が進展しない大きな理由でもある。ハース米外交評議会会長ら外交専門家は「アジアの関係国はTPPを中国の経済力に対してバランスを取る方策と考えており、TPPなしではオバマ大統領のアジア回帰(再均衡)戦略は実質のないものになる」と外交戦略上の重要性を論じている。首相は議会演説でTPPの意義を熱意を持って訴えるべきである。

 アジアインフラ銀行(AIIB)の創設メンバーとして54カ国が参加、第1幕は中国に軍配が上がった。しかし、融資の基準、組織運営の不透明さは解消されないままだ。情報不足が暴露、日本政府の甘い判断に反して先進7カ国(G7)の英独仏伊までが参加に雪崩を打った。国際通貨基金(IMF)、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)など米国主導の国際体制が経済成長著しい新興国の要求に応えていない現れだ。問題はグローバルに拡大し続ける中国の影響力の阻止ではなく、世界規模の新たな経済需要や政治的要求に対応する秩序を日米が協力して、新興国を巻き込み作り上げる理念とプロセスである。どんな新機構であっても、透明性を確保し、高い国際的標準に合致させるための国際的努力が不可欠である。アジアにおいては、東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々に対して、日米両国が協力して積極的に関与、経済発展を支えることが地域全体の抑止力を高め、巨竜中国にのみ込まれないための処方箋になる。
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