国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-03-17 11:45

(連載1)沖縄の「独立」をめぐって:沖縄と主権問題

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 この2月、講演で青森県と沖縄県に行き、それぞれの県の地方も視察した。第一印象は、沖縄は県民所得がわが国で高知県と共に最下位と言われながら、道路、公園、劇場、平和祈念館、公共駐車場その他の諸施設などのインフラ、施設が青森県よりもはるかに立派という感じだった。青森県の方が、中央政府から見捨てられているのではないか、と思ったほどである。沖縄県の年間総所得4兆円の内、国から入ってくるのが1.5兆円だそうだが、沖縄の地元紙によるとこれは必ずしも「国におんぶに抱っこ」ではなく、県民一人あたりの公的支出額は105万円で、他県と比べると17位だそうである(『琉球新報』2015.1.20)。どうも、実感レベルの印象とこのような統計数字がしっくりこないのが気にかかる。インフラ、諸施設などが立派に思えるのは、補助金が道路港湾やいわゆるハコモノに向けられて、県民所得の増加に結びついていないからだろうか。

 それはともあれ、今回の沖縄訪問で強い印象を受けたことは、地元紙が「沖縄独立」のキャンペーンを張っているように思えたことだ。私が沖縄を訪問したとき、『琉球新報』は明治初年に琉球は独立国としてアメリカ、フランス、オランダなどから承認されていたといった歴史的過去を連載で掲載していた。フランスとの条約云々の記事をよく読むと、フランスの軍事的圧力のもとに結ばれた条約に関して、あたかも対等の主権国家として琉球がフランスと付き合っていたかのごとき記事になっている。

 琉球新報社と沖縄国際大学主催で2月15日に沖縄の自己決定権(自決権)をめぐるフォーラムが開催され、富田琉球新報社長が挨拶をし、姜尚中聖学院大学学長(東大名誉教授)が主権問題をめぐって基調講演をした。富田社長は挨拶の中で、「沖縄が明治政府によって暴力的に併合された歴史は、国際法上の不正だということを『琉球新報』の連載で明らかにし、スコットランドの独立運動などを紹介してきたと」述べている。今回のフォーラムの趣旨に関しても、「琉球が『主権』を奪われたとの指摘を紹介した狙いには、『主権回復』という沖縄の未来に向けた筋道が含意されている」と述べている。

 この『琉球新報』の論調や、また同紙などが主催したフォーラムの趣旨も、「沖縄は主権を日本政府によって暴力的に奪われた。沖縄の将来にとってこの奪われた主権の回復、つまり日本からの独立こそが重要課題だ」と主張しているとしか思えない。ただ実際に沖縄の様々な立場の人たちと話をしてみると、沖縄の日本からの独立を現実問題として考えている者は皆無と言ってもよいほどだった。沖縄の日本からの独立を真剣に考えているのか、また実際に沖縄は自立出来るしまた独立すべきだと思っているのかと、沖縄政界の指導部に近い人から一般の島民まで多くの人に尋ねた。今の自民党政権や米軍基地の在り方に強い批判を抱いている者も含めて、私の会った全ての沖縄県人が、「沖縄の独立」を現実問題としては考えていなかった。したがって、『琉球新報』の紙面や同紙などが主催するフォーラムの雰囲気と、沖縄の一般県民の意識があまりにも乖離していることに強い違和感を覚えざるを得なかった。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム