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2015-03-16 10:00

インド、海洋重視へ戦略転換

鍋嶋 敬三  評論家
 インドのモディ首相のインド洋3カ国歴訪(3月10日-14日)は、インドがインド洋地域を「国の政策の優先順位のトップ」(同首相)に据えたことを内外に宣言するものになった。中国と東南アジア諸国との対立が深まる南シナ海を含め、海洋を最重要視する大きな戦略転換である。中国が「真珠の首飾り」と言われるインド包囲網でインド洋に着々と進出してきたことへの対抗だ。インド洋を舞台に中印の角逐は激しさを増している。モディ首相は歴訪に当たり、「インドの安全保障に決定的に重要なインド洋地域との関係強化を最重視する」と、その意義を強調した。中東から日本へ石油、天然ガスを運ぶタンカーは広大なインド洋を渡ってくる。インド洋は日本の安全保障にとっても重要視すべき要の地域である。

 34年ぶりになるセーシェル訪問では、同国の排他的経済水域の保護のための地図作成、航空機やレーダーシステムの供与を約束した。特にレーダー情報の共有については「海洋の安全保障の強化に共通の責任を果たす」(モディ首相)。インドにとってインド洋の軍事情報の獲得の意味は大きい。アフリカのマダガスカルに近いモーリシャスにはインドから初の軍艦を売却、パトロール能力の向上を目指す。離島への連絡のためのインフラ整備で同国軍の能力向上に役立てる。この2カ国ともに、インドからは南へ赤道をまたいで南半球の西南インド洋上に浮かぶ小さな島国だ(人口はセーシェル9万人弱、モーリシャス130万人)。しかし、東南アジアから中東、アフリカに至るインド洋上のディエゴガルシア島に米軍最大の軍事基地があることは、この地域の軍事戦略的な重要性を示すものである(拙稿「百花斉放」No.3089)。

 インド南端に接する島国スリランカでは、中国の原子力潜水艦を寄港させた親中国のラジャパクサ政権に代わり、1月に就任したシリセナ新大統領は2月に初の外遊先としてインドを訪問したばかり。1ヶ月と経たないのに今度はモディ氏がインド首相として実に28年ぶりに訪問、中国傾斜のスリランカをインド側に引き戻そうと懸命な様が読み取れる。モディ首相はスリランカに対して、15億ドルの通貨スワップ協定、鉄道改良のため3億ドル超の信用供与を約束した。中国との距離を置き始めたシリセナ政権は14億ドルの港湾プロジェクトの中断、50億ドルの対中借款の条件見直しを中国に要求していると伝えられる。中国側は港湾計画はスリランカの雇用拡大に役立つと主張、3月下旬のシリセナ大統領訪中を前に巻き返しに大わらわだ。

 インドは首相歴訪と同時期に東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相など外交責任者を集めた「デリー対話」を開き、南シナ海問題を中心に海洋問題を話し合った。インドは東南アジアとの関係について、「Look East政策」を改め「Act East政策」として、地域とのかかわりに主体的に取り組む海洋協力の強化に乗り出した。インド国防省系のシンクタンクである国家海洋財団のV.サクジャ所長は、ASEAN やインド洋との関連で「海洋問題がモディ首相の外交目標を象徴」しているとの見方を示している。丁度この時期に南シナ海では「中国がスプラトリー諸島に巨大な構造物を設置した」(フィリピン国防省)と、中国の一方的な軍事拠点強化への懸念が一段と高まった。インド洋、東南アジア、西太平洋地域は横須賀を母港とする米第7艦隊の守備範囲でもある。地域の安全保障環境が不安定さを増す中で、インド洋における日米印、さらにオーストラリアも加えた安全保障協力への機運がさらに高まるだろう。
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