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2015-03-15 09:39

英国のアジアインフラ投資銀参加というしたたかさの裏

山田 禎介  国際問題ジャーナリスト
 英財務省は中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加方針であることを、中国全人代開催中(12日)に表明した。主要七カ国(G7)で初めてのこの英国の参加表明は、ニュースであると同時に、歴史的にまたもや英国が放った、したたかなグローバルな経済外交テクニックであると思わざるを得ない。英ウィリアム王子訪日に、日本が単純に浮かれたのはつい最近だったが、王子一行のアジア訪問の主要舞台は次の訪問国中国であったことが、この英国アジアインフラ投資銀参加表明からほの見えるようではないか。なにしろ英中間の近世の歴史は、戦争と政治と経済活動だからだ。

 「英国がまたもや」と筆者が感じるのは、冷戦時代に西側で初めて新中国を承認(1950年)したのは英国であるという歴史的事実を思い出すからだ。冷戦時代、英国は米国が強く反対するのを振り切って、あえて共産主義の新生中国を認めたのだ。第二次大戦終結間もないこの時代、英国は植民地香港を回復したばかり。中国を承認して国際社会に紹介する「恩を着せ」、その見返りとして英植民地香港の現状維持を認めさせた。また英国は香港中国返還(1997年)前後から、条件交渉で中国経済市場へ参画を大幅に拡大させた。今回アジアインフラ投資銀への参加表明は、さらなる経済、投資活動の拡大という見返りを求めていることは想像するに難くない。

 日本からみれば一面、英国の”乱心”とも思えるアジアインフラ投資銀への参加方針だが、米国は、冷戦時代の英国の新中国承認に驚いた当時の米国の行動とは大きく違って、比較的冷静である。米国はこれまでの英参画プロセスについて知らされてはいても、知らぬふりを演じてきたとも思える。というのも英国の参加表明は、いわば「NATOへのロシア連絡将校」の役割のようにも考えられるからだ。中国主導のアジアインフラ投資銀は、組織の透明性など、日本や米欧側からみれば運営不安と未知数部分がある。そこを探る意味は大きい。しかも英国は中国市場へのさらなる参入という土産も得る。またアジア地域戦後金融秩序として、歴代の総裁は日本が務めてきたアジア開発銀(ADB)があるが、中国もここへの拠出額では日本や米国には劣るが主要メンバーだ。英国もれっきとした域外加盟国である。拡大するアジア地域経済に、こうした”連絡将校”の役割は大きい。
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