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2015-02-23 00:33

(連載1)予想される国際テロの激化に備えよ

角田 勝彦  団体役員、元大使
 不幸な結果に終わったイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の日本人人質事件のあとも、リビアでのエジプト人人質21人殺害が示すようにISの暴挙は続いている。有志国連合は、ISが支配するイラク北部の大都市モスル奪還の地上作戦準備を含み、IS打倒の強硬対策へ向かっている。我が国も中東・アフリカでのテロ対処能力の向上を支援するために計約1550万ドルを拠出することを柱にした新たなテロ対策を発表した。問題は、オバマの限定的な掃討作戦(左右双方から批判がある)が功を奏しISの崩壊が始まるとしても、ISに合流した外国人戦闘員が約2万人いるとされることから、軍事経験がある彼らの逃亡や帰国による世界へのテロの拡散がありえることである。日本人人質事件への政府の対応の検証は、現行の国会質疑に加え、4月には部内委員会報告が行われる由であるが、それらを参考として人質事件再発を含め国際テロ檄化への警戒を強める必要がある。少なくとも入国管理の強化と国内でのテロ発生への備え拡充が望まれる。

 イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」(IS)は、ムハンマドの後継者「カリフ」を自称するアブバクル・バグダーディが2014年6月一方的に「国家」樹立を宣言して以来、宗派対立に起因する政情不安が続くイラクや内戦下にあるシリアなど、国家権力が機能していない地域に狙いを付けることで勢力を急拡大させてきた。事実上の内戦状態にあるリビアも格好の浸透対象になっている。戦闘員はイラク、シリアほか90カ国以上からの志願者を含め約3万人に達したとされる。2月10日AP通信によれば、ISに合流した外国人戦闘員は、従来の1.9万人より1千人増えて2万人になった。うち少なくとも3400人は欧米諸国から流入したとされる。リクルートに大きな力を発揮しているのが、ネットによるISのメッセージ発信である。国際テロ組織「アルカイダ」が単純なビデオメッセージを発していたのに対し、ISは映画のような凝った映像を配信する。ISを支持するツイッターのアカウント登録は延べ4万5000人分、支持するメッセージは一日約9万件に上るという。武力も強化された。武器弾薬は、トルコからの越境ルートで購入していたが、支配領域を広げるとともにイラク軍やシリア政府軍の基地や自由シリア軍の拠点を征服することで増強した。地対空ミサイルや戦闘機まで保有している。

 これに対し、米国の主導で有志国連合が結成された。これは2014年9月英国で開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせて10カ国の外相・国防相が集まり、結成された(米国務省は10月1日、有志国連合のリストとして日本を含む61カ国をホームページに掲載した)。米国は、その目的として(1)周辺国への軍事支援(2)過激派兵士の流入阻止(3)資金源断絶(4)人道支援(5)「イスラム国」思想の非合法化、を例示した。これ以外に、米国やフランスなどがIS勢力圏でこれまでの半年で2200回を超える空爆を行っている。

 
 日本は、2014年9月の「イラク情勢に関するハイレベル安保理会合」で、「軍事的貢献はできないが、人道支援やテロ対策に積極的に取り組む」として2550万ドルの支援を表明し、避難民らに食料や医療の提供などを行っている。さらに2015年1月エジプトでの演説で、安倍首相はIS対策として2億ドルの人道支援を表明した。さらに2月17日には、邦人人質事件を受け、中東・アフリカでのテロ対処能力の向上を支援するために計約1550万ドルを拠出することを柱にした新たなテロ対策を発表した。これでISへの戦闘員の流入阻止に向けた国境管理や、捜査・訴追能力の強化を後押しする。宗教関係者の招聘を含めた人的交流の拡充策も盛り込んだ。(つづく)
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