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2015-02-16 10:58

シンガポール陥落から「73年」の前と後

鍋嶋 敬三  評論家
 73年前の2月16日、日本の新聞に「萬歳・シンガポール陥落」(読売)という一面ぶち抜きの大見出しが躍った。大本営発表として15日夜、日本陸軍が同地の英軍を無条件降伏させた報道である。「攻城僅七日無敵陸軍の威力」(同)、「大東亜戦の大局決す」(朝日)などの勇ましい見出しで太平洋戦争緒戦の戦果を伝えた。日本軍は1941年12月8日、真珠湾攻撃より1時間前にマレー半島に上陸を開始、アジアにおける英国の最重要拠点であるシンガポールの占領を目指した。英軍にはオーストラリア、インドなど英連邦、英植民地の軍隊も参加していたが、急速な日本軍の進撃に2ヶ月余りで陥落した。

 73年後の今年2月15日、華人中心の都市国家シンガポールの「サンデー・タイムズ」紙は「戦争犯罪の記録公開」の見出しで1ページの3分の2を割く特集記事を掲載した。国立博物館が所蔵する新たな資料の展示で、日本軍のさびた機関銃、捕虜が収容所に密かに持ち込んで連合軍のニュースを傍受した小型マッチ箱に入る無線ラジオなどが、シンガポール戦73周年と解放(終戦)70周年を記念して公開された。参観した戦争生き残りの元中学校校長(90歳)は「日本軍の拷問で多くの捕虜が殺された。教科書には詳しく書かれていない捕虜や市民の苦難を今の世代に伝えるものだ」と「70年後」に戦争を問い直す意味を語った。

 この3週間前の「ストレーツ・タイムズ」紙には、英海軍の元兵士(88歳)が戦没者墓地に慰霊に訪れたことが報道された。召集された時は17歳、沖縄戦で軍艦が多大の損害を被り、英国の同郷の兵士はシンガポールで帰らぬ人となった。「狭量と言われるだろうが、日本製品は絶対買わない」と、70年間持ち続ける強い反日感情を吐露した。シンガポール攻防戦では華人系住民が対日抵抗運動の中核になった。日本軍は占領中に反日分子の掃討作戦を行ったが、犠牲者は推定で5000人から5万人まで日本側と現地とでは見方に大きな違いがあり、正確な数字はつかめていない。

 安倍晋三首相は今年「戦後70周年」に当たって出す首相談話について、「歴史認識は歴代内閣の立場を全体として受け継ぐ」「アジアや世界の平和と安定に貢献する方針」を盛り込む考えを明らかにしている(2月14日)。しかし、アジアだけでなく、米国や欧州にも「村山談話」から逸脱するのではないか、との危惧が強くある。1995年の終戦50周年記念日に村山富市首相は「植民地支配と侵略によって、とりわけアジアの人々に多大の損害と苦痛を与えた。この歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切なる反省の意を表し、心からお詫びの気持ちを表明」する談話を閣議決定した。日本は多くが占領地域になった東南アジア諸国と現在、良好な関係にある。しかし、一皮むけば戦争の傷跡は深く現地の人々の心の底に代代刻み込まれている。「安倍談話」はそのようなアジアの底流をしっかり把握した上でのものでなければならず、そうすることが日本に対するアジアの信頼をより確実にする道であろう。
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