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2015-02-10 06:40

外務省の渡航制限措置は当然だ

杉浦 正章  政治評論家
 銃を乱発する立てこもり事件で張られた規制線を突破して記者やカメラマンが取材活動をしようとすれば、「取材の自由」などと言ってはいられない。警官は当然制止する。今回のフリーカメラマンのシリア渡航を外務省が旅券返納命令という異例の渡航制限措置で阻止したのは当然である。名も知れぬ地方カメラマンが一挙に有名人になったが、狙いはそんなところかも知れない。一部新聞は憲法に保障される報道の自由や渡航の自由を主張するが、自由も事によりけりだ。一個人の利益のために膨大なる国費と政治資源を使用して、憲法の保障する「公共の福祉」が保てるのか。諸外国の例をみれば、米国の場合は一般人対象に渡航警報を発出するが、取り立てて報道陣に対して警告を発するケースはまずない。米国は報道の自由は最も重視される国の一つだが、危険地帯に侵入するケースはあくまで自己責任であり、政府は関知しない事が原則だ。しかし、米国人ジャーナリストが人質になった場合などは救出作戦に出るケースもある。米軍とイエメン軍は去る12月6日、イエメン南部で、国際テロ組織アルカイダ系武装勢力「アラビア半島のアルカイダ」にとらわれていた人質ジャーナリストらの救出作戦を実施している。しかし、人質は作戦中に死亡して失敗している。フランスではAFP通信がフリージャーナリストによる危険地域からの記事や写真の売り込みを拒否する方針を決めた。日本の民放テレビや新聞は見習うべきだ。

 それでは日本の場合自己責任で危険地帯に指定しているシリアに取材に行くことを許した場合にどうなるかだ。人質になれば、今回一部野党が首相・安倍晋三の片言隻句を取り上げて批判したように、何でもかんでも政府の責任に転嫁しようとすることは火を見るより明らかである。物事の本筋を見過ごして、野党やマスコミは「あれが悪い。これが悪い」と島国根性丸出しの批判を展開する。一方で米国のような救出活動が可能かと言えば、現行法上は不可能に近い。だから安倍が自衛隊の人質救出を可能にする法改正を主張しているのである。こうした日本独特の雰囲気の中で、未然に人質事件を防止するには、最初から行かせない措置を取ることが正しい。旅券法には19条に、旅券所有者の「生命・身体・財産の保護」を理由に、政府が旅券の返納命令を出せると定めている。この邦人保護規定を初適用して強行策に踏み切ったのだ。この適用は当然憲法の報道の自由と渡航の自由に抵触する恐れがないとは言えない。渡航の自由は憲法22条の「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」が根拠だが、今回の場合前者の公共の福祉条項が根拠になる可能性が高い。人権制限より公共の福祉が優先されるケースがあるからだ。

 過去に類似する唯一の例として、最高裁判決がある。左派社会党員、帆足計が1952年3月に当時のソ連のモスクワで開催される国際経済会議に出席するために、当時の外相・吉田茂に対してソ連行きの旅券の発給を申請した。しかし吉田は、帆足が旅券法13条にいう「著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うところがあると認めるに足りる相当の理由がある者」であると認定をして、旅券の発給を拒否した。帆足は海外渡航の権利を侵害されたとして、国に対して損害賠償を請求したが、上告棄却で敗訴となった。「海外渡航の自由」といっても、無制限に許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解すべきであるという判断が根底にあった。今回、カメラマンの言い分は、安倍が「テロに屈しない」と言っていたことをとらえて「テロに屈しないと言うことは、今まで通りの活動をするということだ」と述べているが、殺害された二人の映像も、強制された発言もテロに屈した姿そのままではないか。国に甘えるのもいいかげんにして、テロの現実を見詰めるべきであろう。カメラマンはマスコミにけしかけられたのか、法的措置を検討しているというが、「命を助けてもらった恩返しに裁判沙汰」はないだろう。良識ある国民の支持は得られない。渡航制限が行われたのはよくよくの事態であり、政府はこれを先例として同趣旨の渡航者をどんどん取り締まるべきだ。

 今回安倍政権が取ってきた一連のテロ対策への国民の支持は、内閣支持率上昇によって証明された。読売の調査では安倍内閣の支持率は58%で前回調査の53%から5ポイント上昇した。NHKの調査でも4ポイント上がって54%。反安倍に徹しているテレ朝の報道ステーションですら5.3ポイントの上昇だ。NHKでは「イスラム国」による日本人殺害事件での安倍内閣の対応を評価するかどうかについて、「大いに評価する」が11%、「ある程度評価する」が40%、「あまり評価しない」が32%、「まったく評価しない」が10%という結果だった。これにより民主、共産、維新など野党各党の、安倍に対する揚げ足取り作戦がいかに国民常識と乖離(かいり)していたかを物語るものだろう。野党は失敗に終わったことをかみ締めるべきだ。
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