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2015-02-09 10:03

米印関係の進展、アジア情勢に転機

鍋嶋 敬三  評論家
 「イスラム国」による人質殺害事件に目を奪われているころ、南アジア情勢が大きく動いた。オバマ米大統領のインド訪問で「アジア太平洋およびインド洋地域における米印共同戦略ビジョン」を発表(1月25日)、東アジアからアフリカに至る広範な地域での協力を確認した。日本やオーストラリアとの協力を念頭に「第3国との3カ国対話」への注力もうたいあげた。航海と飛行の自由の重要性を確認した中で、インドの国土が直接面していないにもかかわらず、中国が「核心的利益」とする「南シナ海」に特に言及、インドの関与を明確にしたことは特筆される。オバマ訪印の影の主役は正に中国だったのであり、インドのモディ首相の外交路線が米国との協力強化に大きく舵を切ったことを印象付けた。

 シンガポールの有力紙「ストレーツ・タイムズ」はオバマ訪印を連日のように報道、特集記事も組んで東南アジアの関心の強さを示した。同紙の社説は両首脳の「馬が合った」ことで米印2カ国関係に「新たな好機が生まれた」と好意的に評価、「両首脳の強い信頼関係が広範なアジア関係に影響を与えるだろう」と指摘した。米印パートナーシップが米国のアジア回帰の手助けになるとの見立てである。オバマ氏は米大統領として初めて2回インドを訪問し、今回は共和国記念日に唯一の主賓として初めて招かれた。それだけインドの期待は大きかった。気候変動や人権問題では一致しなかったものの、民生用原子力協定、防衛協力の強化で大きな成果を挙げた。米印ともにアジアで中国の一極支配を望んでいないことが、「共同ビジョン文書に埋め込まれた戦略的メッセージ」というインドの専門家のコメントを同紙は紹介した。

 オバマ訪印に先立つ1月8日、「スリランカの変」があった。中東からアジアに至る海上交通路(シーレーン)を扼(やく)するインド南端のこの島国に対して、中国は港、空港など巨大なインフラ投資を注ぎ込んでおり、中国の潜水艦寄港にインドが懸念を強めてきた。中国寄りのラジャパクサ大統領が任期途中で選挙を敢行したが、シリセナ前保健相が僅差で勝利、翌9日には政権が交代した。新政権は大規模プロジェクトに絡む大統領親族の汚職追及を選挙公約に掲げた。多くが中国の「21世紀海洋シルクロード計画」と結びついているとされるインフラ計画の破棄や再検討が課題になっており、インド洋進出を目指す中国には打撃になると、米国の南アジア専門家は指摘している。

 安倍晋三首相は「地球儀俯瞰(ふかん)外交」の一環として、南アジア外交にも積極的に動いてきた。首相は2014年9月にスリランカとバングラデシュを訪問した。同月にはインドからモディ首相を迎え、11月豪州でのG20首脳会議でも再会談、日印の戦略的協力関係を「特別」なパートナーシップとして再確認したうえ、日米印、日豪印の3カ国協力の重要性に合意した。岸田文雄外相もオバマ訪印の直前にスワラジ外相との戦略対話で日米印を含む安全保障協力で一致している。インドのモディ首相はオバマ訪印の直後に外相を中国に派遣、5月に訪中の準備を進めており、対中関係の調整も怠りない。南アジアをめぐる目まぐるしい展開はアジア全域の情勢に影響を与えずにはおかないだろう。
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