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2015-01-19 11:36

(連載1)佐賀県知事選とアベノミクス

角田 勝彦  団体役員、元大使
 1月11日の佐賀県知事選で自公推薦の樋渡候補が安倍政権の農協改革に反発する地元農協などが推薦した山口候補に敗れたことは、与党内にかなりの衝撃を与えた。自民党にとって昨年7月の滋賀、同11月の沖縄両県知事選に続く敗北である。10道県知事選など計981の地方選挙となる4月の統一地方選に向けた選挙戦略の練り直し、具体的には農協改革の見直しを要望する声も聞かれたが、安倍晋三首相は、16日、農協改革を断行する決意を明らかにした。

 農協改革は、足踏み状態にあるアベノミクスが望みを託す成長戦略の柱に掲げられている。さらに、5月にもくろまれている安倍首相訪米を控え煮詰まってきた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉との関連もある。TPPは貿易投資自由化交渉の主役になったメガ自由貿易協定(FTA)の中核にもなっているが、日本では農協などの反対も強いのである。農業分野の生産性向上という基本目的には賛同するが、昨年12月衆院選に自信を得た安倍首相の猛進には危惧の念を持たざるを得ない。

 4月の統一地方選では、アベノミクスを中心に農業問題を含む経済社会問題が最大の焦点になろう。安保法制の問題もある。その結果は、国民がどこまで安倍政権の猛進を許容するかを示すものとなろう。佐賀県知事選では、元総務省過疎対策室長山口祥義氏が自公推薦の前武雄市長樋渡啓祐氏などを破った。安倍政権の農協改革に反発する地元JAなどが山口氏を推し、保守支持層が分裂した結果である。安倍政権は佐賀県知事選を「どんな手を使ってでも勝たないといけない」(政府高官)重要な戦いと位置付け、政権幹部が次々に駆け付け、支持を訴えたが及ばなかった。当面、国民の最大の関心事が経済社会問題にあることは明らかであり、この分野での安倍政権の新自由主義的猛進が困難なことが立証された。

 アベノミクスは、株高・円安が進んだにもかかわらず、昨年7~9月期の実質国内総生産(GDP)の成長率が前期比の年率で1.6%減と想定外のマイナスに陥ったことが示すように、課題を残している。第一の矢(大規模な金融緩和)、第二の矢(財政出動)はいずれも、1本では終わらず、追加緩和、補正予算という「二の矢」をつがえる状況になった。消費低迷・伸びぬ輸出・実質賃金減・コスト増の四重苦で、目的のデフレ脱却・景気回復に至っていない。さらに予定されていた消費税再引き上げが2017年4月に延期されたこともあり、財政健全化の道筋も定まっていない。(つづく)
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