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2015-01-11 21:46

(連載1)ロシアのエネルギー戦略の経済合理性と政治性

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 わが国のロシア経済やエネルギー問題の専門家の中には、不思議な「神話」が流布している。近年、ロシアが近隣諸国や欧米ともエネルギー問題で政治トラブルを起こすことが多いが、この問題に対するわが国の多くの専門家の見解が、国際的に見て独特なのだ。つまり、天然ガスや石油問題ではロシアは純粋に経済原理で動いており、それをめぐるロシアと各国の政治・経済トラブルの大部分は、ロシア以外の国に非がある、という神話が流布しているのである。

 2005年にプーチン大統領が、「エネルギー資源はロシアの最も重要な国家戦略の手段だ」と公言するのを筆者はモスクワで直接聞いている。しかし、わが国の専門家はしばしば、ロシアがエネルギー資源を政治手段として利用している、ということさえも否定する。筆者自身は、ロシアはエネルギー資源に関しては、当然ながら経済原理で動かされるし、同時に国家戦略の手段としても意識的にそれを利用していると考えている。したがって、日本がロシアとエネルギー協力をする場合にも、経済的観点とエネルギー安全保障の双方の側面からアプローチすべきである。あまりにも当然のことなので、今さら論じること自体気がひけるくらいだが、最近の注目すべきトピックスに関連して、考えてみたい。

 12月1日にプーチン大統領がトルコで、ガスパイプライン「南ストリーム」プロジェクトを放棄すると宣言して、世界を驚かせた。同計画は、ロシアとの「ガス戦争」が恒例となるほどトラブルの多いウクライナを迂回して欧州にガス輸出するためのもので、天然ガスをロシアから黒海海底を通しブルガリア経由で欧州に出すものだ。この計画は、カスピ海地域や中央アジアのガスを、ロシアを経由しないで世界市場に出す欧州・米国主導の「ナブッコ計画」と競争・対抗するものであった。プーチンおよびロシアは、国のメンツをかけ全力をあげて「南ストリーム」を推進し、すでにロシアがこの競争では完勝したと見られていた。2012年12月に建設が開始され、ロシアはこれまで50億ドル以上投入している。突然の中止の理由として公表されたのは、EUの圧力によってブルガリアが建設許可を出さないため、また新たに同じ容量のガスをトルコ経由で欧州に送る計画の合意がトルコとの間に成立したから、というものだ。

 EUの圧力とは、EUがエネルギーの独占支配を排除するため、生産企業と輸送企業の分割を義務付ける「第3次エネルギー・パッケージ」を2009年に採択して、ガスプロムが欧州向けパイプラインを管理することを認めていないことを指す。ただ、EU加盟国でも、ブルガリア、ハンガリー、オーストリア、イタリアなどの国や企業は「南ストリーム」受け入れの姿勢を示していたが、欧州委員会はブルガリア政府にEUのエネルギー基本政策を守るよう働きかけていた。(つづく)

 
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