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2015-01-06 10:42

(連載2)機雷掃海と改憲準備

角田 勝彦  団体役員、元大使
 さて、なしくずし・前取り改憲の一つが機雷掃海である。敷設された機雷を戦闘期間中に除去するのは、武力行使とされる。米国等に協力しての機雷掃海には歴史がある。最初は米軍占領下の時代の朝鮮戦争への参加である。長らく秘密にされてきたが、1950年10月から12月までに、占領軍の要望に応じ吉田茂首相は、航路警戒隊(現海上自衛隊)の掃海艇46隻と旧海軍軍人1200人による日本特別掃海隊を、米第七艦隊の指揮下で朝鮮海峡の掃海作業に従事させた。蝕雷で死者1名も出た。ただし、次例と違いこれは参考にできないだろう。1987年、ペルシャ湾の機雷を掃海するため米国は自衛隊の派遣を求めた。外務省幹部が、後藤田正晴官房長官に「自衛艦を出したい」と持ちかけたが、 後藤田長官は、中曽根康弘首相に「自衛隊を出したら戦争になる。国民にその覚悟ができていますか。派遣するなら私は閣議でその文書に署名しない」と通告し派遣は見送られた。

 次は湾岸戦争である。サダム・フセインのクウェート侵攻に多国籍軍が編成されたこの戦いに日本は130億ドルの資金提供をしたが、国際社会は評価していないと言われた。このため、日本政府は1991年、湾岸戦争後の機雷除去のため、掃海艇をペルシャ湾に送り、初めて海外に自衛隊を派遣した。これ以降、国連平和維持活動(PKO)を中心に積極的に国際協調行動に乗り出した。2012年2月には、政府は、核開発を続けるイランが米欧の制裁強化に反発してホルムズ海峡を封鎖する事態を想定し、ペルシャ湾への自衛隊派遣の検討に着手した。自衛隊による機雷除去と、ホルムズ海峡封鎖時にタンカーなどの護衛や機雷除去にあたる艦船への給油などの後方支援活動が検討された。日本から掃海艇を派遣するのは、イランが交戦状態に陥っている間は、憲法の禁じる海外での武力行使に該当する可能性が高いとして、紛争終了後になるとの見方が強かった。結局実現しなかった。

 なお2014年5月の安保法制懇報告書は、事例3として「 我が国の船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域(海峡等)における機雷の除去」をあげ「現行の憲法解釈では、我が国は停戦協定が正式に署名される等により機雷が『遺棄機雷』と評価されるようになるまで掃海活動に参加できない。そのような現状は改める必要がある」として、「集団的自衛権の行使」容認を求めている。昨年7月の閣議決定(武力行使の新3要件)の限定は厳しい。日本と「密接な関係にある他国」が武力攻撃され、国民の生命や権利が「根底から覆される明白な危険がある」場合に集団的自衛権の行使を認められるとしている。昨年7月15日の参院の集中審議で、内閣法制局の横畠裕介長官は、これを「日本が直接攻撃を受けたのと同様な被害」と説明した。

 第一次石油ショックのときでも、こんな被害はなかった。まして2度の石油ショックの経験から、エネルギー節約、エネルギー源の多様化と原油等輸入先の多角化・備蓄の増加が図られている現在、被害はなお少ないだろう。緊急事態には原発の再稼働も検討されよう。なお仮に本当にこんな被害が生じるのなら、個別的自衛権で対処できるのではないだろうか。安倍晋三首相は、記者会見で「自衛隊が武力行使を目的として湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことはこれからも決してない」と語っている。「戦闘」が地上戦のみを意味するわけではあるまい。 敷設された機雷を戦闘期間中に除去するのは武力行使にほかならない。軽々に取り扱える問題ではない。与党内及び国会での十分な審議を期待する。(おわり)
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