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2015-01-06 10:37

(連載2)多元化世界と日本の針路

鍋嶋 敬三  評論家
 四方を海に囲まれた日本の安全は、命綱とも言うべき中東からアジア至る長大な海上交通路(シーレーン)の安全保障にかかっている。アジア、中東情勢の不安定化、紛争の多発と激化を見れば、日米安全保障体制の強化は不可欠である。新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)の策定、包括的な安保法制の整備などを迅速に進めなければならない。西太平洋で覇権の確立を目指す外国勢力に防衛上の隙を与え続けて行く余裕は日本にはない。日米安保体制の網を広げるため、日本がオーストラリアやインドなどと新たなネットワークを広げ、強化するのは望ましいことである。現に、オーストラリアとの間では日本の高い技術が評価された新型潜水艦の建造をめぐり、日米豪の協力体制が進行している。このような協力網の拡大は日本の安全保障の力になる。

 新たな秩序の合意形成のためには米国に任せ、あるいはついて行くという追随姿勢であってはならず、日本の主体的な努力が欠かせない。2014年12月、国連総会で日本が主要提案国となった核兵器廃絶決議案は賛成170カ国と過去最多の賛成で可決された。毎年のことだが、日本主導の平和への行動として国際的に高く評価されている。因みにこの決議案に対して核兵器国の中国やロシアは反対もできず、棄権せざるを得ない立場に置かれている。日本は世界では武力紛争以外に大きな役割を果たす分野が多い。人間の生存を脅かすエボラ出血熱、大地震・大津波、台風・ハリケーンなどの大規模自然災害への対応、さらに進んで防災対策、環境保護など非軍事面の安全保障(人間安全保障)の地域的、世界的な枠組み作りはad hoc(特別の)も含めて日本は政府開発援助(ODA)の活用などで目に見える貢献ができる。

 英国、フランスやドイツなどは人口や経済規模で日本より小さいが、世界で大きな発言力を持つ。中級の国家が力を持つのは、伝統や文化を背景にした政治的な影響力があるからで、軍事力もさることながら大きいのはソフトパワーである。日本は経済的、技術的な力では彼らには劣らない能力がある。二国間協力を進めることはもちろんのこと、アジアでは東南アジア諸国連合(ASEAN)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)や東アジアサミット (EAS)など地域を包括する多国間機構もある。日本が新興国への影響力を広める舞台は相当前から用意されていた。日本に足りないのは、与えられた条件を十分に駆使して世界を安定させるという国家としての責任感と、それを実行する政治的な意思である。幸い安倍首相は総選挙で内外の政策を遂行する政治的基盤はできた。

 安倍首相にとって第一の課題は、農業、医療など既得権益にしがみつく抵抗勢力を押さえ、構造改革を徹底して成長戦略推進の土台を固めることだ。第二にグローバル経済の「鬼子」である格差の是正である。母子家庭を餓死に追い込むような経済、社会の格差の深刻化は、貧困の再生産から社会不安と政治への強い不信を招き、国家の不安定に結びつく。第三に安倍首相が目指す憲法改正や集団的自衛権の行使など国論を二分する高度の政治課題については、国民の大半の理解を得るよう真摯(し)な論議を尽くす必要がある。議会制民主主義の根幹は多数決である。しかし、衆参両院の選挙を通じて、憲法違反(の疑い)の判決が繰り返されるようでは、国会が民意を反映しているとは言い難い。世論調査を見ても国会の議席と民意の乖離は歴然としている。選挙制度改革を断固として実行し、民意を正しく汲み取る政治システムを確立することでしか内政、外交、安全保障を含めた揺るがぬ国家意思を固めることはできない。(おわり)
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