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2015-01-03 07:28

(連載2)新聞は編集と経営を分離できるか

中村  仁  元全国紙記者
 ニューヨーク・タイムズにも、ウォーストリート・ジャーナルにも、フィナンシャル・タイムズにも、独特の編集方針があり、それに沿った記事の書き方がなされています。これは経営上の考えからきているのであり、「編集と経営の分離」どころか、両者が一体になっているのでしょう。欧米の新聞で紛争が起きるのは、経営が斜陽になって買収され、編集方針が大幅に変わるような時とか、リストラに直面する時に、記者が経営側と対決するといったケースがよくありますね。

日本に話を戻すと、役員会を編集責任者(論説委員長を含む)抜きで構成すると、社長以下は新聞の補助部門である販売、広告、印刷、経理、総務担当などとなります。これでは新聞の基本的な課題を議論することはできません。「編集の原則独立」を打ち出した朝日は今後、編集責任者を役員にしないのでしょうか。役員にすれば、その人は編集局、論説委員会の指揮をとるわけですから、「役員会からの独立」と矛盾してしまいます。さてどうするか。そこで、これを現実の問題として考えると、その背景には、新聞社では会長、社長の権限が極めて強くなり、人事権もがっちり握って、独裁的な企業運営がなされ、それが長期政権になりがちになるという問題があります。トップの声に編集責任者、編集記者は背けない土壌があります。

 株式を上場、公開しておらず、社外からの取締役、監査役はトップが連れてきますから、外部チェックは形だけであまり効きません。独裁政権は、全国紙にも地方紙にも存在します。それでも英明なトップなら問題を起さないかもしれません。朝日の場合は、検証特集での「お詫び」の掲載、朝日批判をした池上氏のコラムの掲載を、社長の判断で見送りました。言論の自由を標榜する新聞社としての基本的なミスであり、社長に基礎的な判断能力が欠けていたのです。一方、かりに英明なトップであっても、在任期間が長期化すると、トップが使いやすいような組織に自然に傾斜し、判断ミスを犯すようになります。新聞社における「編集と経営」とは、トップのありかたに直結する問題と、現実に即して考えたほうがいいようですね。

 もうひとつ。記者は様々なことを取材しているので、自社の利害関係に直接かかわる事実がわかり、それをどう報道するかという問題にぶつかる時がありえます。それを「編集と経営は不可分」がとして、報道を封じてしまうのは、この解釈の誤用にあたり、それこそ中立性に反しますね。新聞社は言論・表現の自由が生命線ですから、新聞社を構成する個々の記者にも、言論・表現の自由を認めねばなりません。社論に合わない解説を書こうとした記者を排除したり、社論に都合の悪い事実を伏せさせたりしてはいけません。記者のほうも過剰に自粛してはいけません。社論に沿った硬直的な紙面より、多様な言論がある紙面のほうを読者も好むはずです。(おわり)
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