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2014-12-10 02:02

(連載2)オバマ外交は弱腰外交か

角田 勝彦  団体役員、元大使
 欧州大陸を灰燼と化した1648年まで30年にわたる凄惨な宗教戦争のあと、欧州の安定を回復するため諸国代表が集まったウエストファリア平和会議では、「統治の正当性」を求めるより、主権尊重、内政不干渉という制度面から勢力均衡を図ることが最優先とされた。これは価値中立的な現実主義に即していたため、のち欧州以外の文明社会にも受け入れられるようになった。現在は、第一次及び第二次大戦の惨禍に懲りた国際社会が、従来の、列強を中心とする主権国家相克の時代(対立する同盟の時代)に代わり、「不戦」と「価値観の共有」、さらには「平和的統合」を課題として、国家主権の一部共有を模索している時である。

 国連、EUや類似の各種地域組織がその具現化である。停滞や反動が、目標達成への信頼低下を生み、それがロシアや中国、さらにイスラム過激派など欧米の価値観を共有しない諸勢力の影響力増大につながることはあるが、課題自体は変わらない。オバマ政権は12月4日の米中間選挙で共和党に大敗したが、原因の一つは弱腰外交批判にある。国際的にも世界平和に与える悪影響について批判がある。しかし、一例として、もし化学兵器の全廃のためシリアへの軍事介入に踏み切っていれば、イラク・アフガニスタンでの例に見られるように、泥沼化したばかりでなく、米国はシリアを侵略した、と国際的非難を浴びていただろう。

 2014年1月の一般教書演説で軍事行動は「本当に必要な場合」に限られると述べたオバマの決意は、中間選挙後の11月ヘーゲル国防長官の事実上の更迭で確認された。下院で共和党が戦後最大の議席を占めたにかかわらず、米国が「世界の保安官」的行動を慎むというのなら、米国の意思を尊重するほかあるまい。

 他方、ロシアにせよ中国にせよ、米国を見くびっていない。EUほかと一体になっての圧力は無視できない力を持つ。もちろん軍事的対決など考えの外だろう。また両国は国際社会のルールを無視しているわけではない。ウクライナ危機でも香港民主化デモでも、両国は国際社会に対する自国の行動の正当化・合法化に苦心しているのである。我々としては両国に対し力による一方的な現状変更が自国の利益にならないことを、国際社会と協調して粘り強く説くことが重要である。不戦は世界の流れである。「国際秩序の崩れ」なるものを過大視することなく個々の事例に冷静に対処していくことが肝要であろう。(おわり)
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