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2014-12-12 22:30

(連載1)アメリカと世界を危険にするオバマ外交

河村  洋  外交評論家
 中間選挙から間もない11月5日に開催されたムンク討論会というイベントで、「オバマ政権の外交政策によってアメリカの敵対勢力が活気づき、世界はより危険になったか?」というテーマの討論会が行なわれた。ムンク討論会は半年ごとに開催される公共政策の公開討論会で、カナダの慈善事業家でバリック・ゴールドという鉱山会社を経営するピーター・ムンク氏の後援によってトロントで開催されている。このイベントは英語圏では大いに注目を集め、カナダのケーブル公共問題チャンネル(CPAC:Caple Public Affairs Channel )およびCBC、アメリカのC-SPAN、イギリスのBBCで放映されている。

 このイベントでは4人のパネリストを招待してオバマ政権の外交政策が世界平和に与える悪影響について討論が行われた。このテーマへの賛成派にはブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員と『ウォールストリート・ジャーナル』紙のブレット・スティーブンス編集員が招かれた。反対派にはニュー・アメリカ財団のアン・マリー・スローター最高責任者兼所長とCNN国際問題番組ホストのファリード・ザカリア氏が招かれた。この6年間にアメリカの敵は続出し、これまでになく挑発的な行動に出るようになった。ウクライナに対するロシアの攻撃的な政策がヨーロッパを震撼させたのは、プーチン氏が武力によって国境を変更したような行動は第二次世界大戦の終了から見られなかったからである。ジハード主義者の人数は急速に膨れ上がり、彼らはシャリア法が支配する国家のような統治形態さえ設立している。

 国際安全保障が不安定化しているにもかかわらず、アメリカの世論と国際世論のパーセプション・ギャップは著しい。アメリカ国民はオバマ政権の外交政策に対して内政政策以上に不満を抱いているが、アメリカ国外ではいまだにオバマ氏がブッシュ政権による単独行動主義を軌道修正し、国内の人種差別をも克服した救世主のように思われているようである。ドイツ、インドネシア、中国といった国々の世論調査結果がオバマ氏に好意的であるように。しかしバラク・オバマ氏が国際舞台で挙げた成果はきわめて乏しい。ブレット・スティーブンスがこのイベントで述べたように、オバマ氏は外交政策については中東のテロ掃討とイラクおよびアフガニスタンからの撤退、ロシアとの関係リセット、ヨーロッパおよびイスラム世界との関係改善にいたる選挙公約を何一つ達成できていない。それどころかアメリカの敵は活発化する一方である。ジハード主義者は海軍特殊部隊によるオサマ・ビン・ラディン殺害をものともせず勢いが衰えない。ロシアはリセットをリセットしてしまい、より敵対的になっている。

 スローター氏とザカリア氏は非国家アクターや新興諸国の台頭のようなグローバル政治の変化こそ重要で、それによって世界は複雑化していると言ってオバマ氏を擁護した。確かにアメリカが今日直面する問題は、全てがオバマ氏の責任だというわけではない。しかしISISをJV(junior varsity:高校・大学の二軍)チームと呼ぶほど不謹慎で致命的な誤りを犯すようでは、オバマ氏は国家の指導者としての資質を根本的に欠いていると疑わざるを得ない。 そのような発言にはオバマ氏自身の政権の中枢を占めたレオン・パネッタ氏やミシェル・フローノイ氏ばかりか、軍高官までもあきれてしまった。歴史は我々に大帝国がしばしば弱小な部族に敗北したことを教えてくれる。敵がどれほど弱体であっても過小評価は危険である。(つづく)
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