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2014-11-12 06:28

大義なき自己都合解散に反対する

杉浦 正章  政治評論家
 あれよあれよという間に、政局が「無謀なる解散」へと突き進んでいる。それも消費増税の先送りが選挙にプラスに作用するという誤判断が根底にある。そもそも国民が望んでいるのはアベノミクスの一刻も早い成功とデフレ脱却であり、そのための増税先送りなのだ。首相・安倍晋三はそれを無視して、野党の態勢が整っていないのをこれ幸いに、議席確保のためだけの党利党略で解散を断行、これが大向こううけするとでも思っているのだろうか。思っているとすればポピュリズムも極まる。予言しておく。確実に有権者のしっぺ返しを食らう。自民党は「反民主党政権の嵐」に支えられて2年前の総選挙で圧勝、現在294議席を確保しているが、これは目一杯の数字である。「大義なきき自己都合解散」では20~30議席は減少する。議席を減らした首相が来年の自民党総裁選で再選されるだろうか。確実に政権は弱体化する選択であることが分かっていない。

 そもそも解散権を持つ唯一の政治家は安倍であり、安倍が不在の間にまるで「解散クーデター」のような、報道が続いている。問題は安倍ががなぜこれに両手を広げてストップをかけないかである。11月11日の記者会見はこの流れを止める絶好のチャンスであったが、否定のトーンがまるで弱いのである。その内容は「解散のタイミングについて私は何ら決めていない。国内では憶測に基づいた報道があると聞いているが、それに答えることはしない。私は解散について言及したことは一度もない」だ。外遊前は「考えていない」と全面否定だったが、「決めていない」にトーンを落とした。「言及したことは一度もない」とはまるで“他人事”であり、止める気があるならこの言葉は使わない。この背景には、安倍とその側近の間で謀略があるとしか思えない。謀略とは安倍の外遊中に解散風を吹かせるだけ吹かして、帰国したらすぐ解散できるようにしておくというものであろう。繰り返すが、解散の大権は首相にあり、その承諾なくして「官邸筋」が大うちわで煽るような発言をするわけがないのだ。首相が完全否定すれば止められたがその最後のチャンスが11日であった。これでは解散風はいよいよ高まり、帰国する17日には各党も選挙態勢が整い、本会議で「解散バンザイ」をするだけとなっているだろう。

 この安倍の「奇襲解散」は、その根幹において大きな誤算がある。まず第一の誤算は増税先送りまたは3党合意の解消が、解散の大義にはならないことだ。延期が有権者うけするというのは誤算である。残念ながら日本の有権者はそれほどレベルが低くない。むしろアベノミクス隠しと受け取るだろう。なぜなら増税先送りは、紛れもなく成否が正念場を迎えたアベノミクスを成功に導きデフレからの脱却を図るためのものであるからだ。それを唐突にも選挙に“転用”しようとしているのだから、国民が見抜けないわけがない。アベノミクスの正念場に解散・総選挙で2か月の政治空白を作って、しかも予算編成に支障を来すことが政権トップのやることであろうか。だいいち増税先送りは消費増税の付則に景気条項があり首相判断でできることになっている。官邸には自民党内の反対派を押さえつけるためという説があるが、それこそ首相自身がリーダーシップを発揮して説得すべき仕事であり、反対派の寝首をかくような解散で対処することでもあるまい。今のまま選挙に突入すれば、増税延期派と実施派が分裂選挙となり、結局延期派が有利な選挙を展開できるだろう。当選してきた増税派は恨み骨髄に徹して党内は政権抗争ムードが横溢する可能性がある。側近らはさらなる4年の長期政権が確保出来るという甘い判断があるが、逆に政権基盤は揺らぐのだ。総選挙で勝利すれば増税派も首相に従わざるを得なくなるというが、これは支持率への過信だ。小選挙区制になってから国政選挙は「風」によって左右されるのであり、無党派層が増加していることを見逃している。

 さらに野党の選挙準備が出来ていないのがチャンスという主張がある。これも解散の大権を党利党略のためにのみ使うという自己都合だけが目立つ。国民から「解散で信を問え」という声はゼロであり、無理矢理選挙を押しつけられた有権者が、自民党に投票するという根拠はない。むしろ、まやかしを感じ野党の「アベノミクス隠し」の主張の方が説得力を生じさせる可能性がある。自民党にとって不利に働く原発再稼働や集団的自衛権の行使も争点化することは避けられない。これらの論議が生ずる前に解散をすると言うが、これもまっとうな政治判断ではない。むしろ卑しい。とりわけ集団的自衛権法制はその成否が解散に直結しうる問題であり、情勢によっては再度解散に追い込まれる事だってあり得る。アベノミクスの失敗も解散に追い込まれる要因だ。すぐにまた解散という可能性もあることが分かっていない。かねてから述べているが、294議席は天が与えた僥倖(ぎょうこう)であり、首相たるものこれを安易に毀損してはならないのだ。300議席近く取った政権は、次の選挙では確実に票を減らす。おそらくよくて270台がいいところであり、風によっては250~260台にまで落ちる可能性がある。そうなれば9月の総裁選挙への影響は避けられない。要するに政局を展望すればするほど、戦後政治史上まれな馬鹿げた解散をするものだということになるのだ。 
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