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2014-11-07 06:57

安倍は尖閣、靖国で譲歩する必要は無い

杉浦 正章  政治評論家
 どうも中国は時代錯誤の朝貢外交「皇帝が会ってつかわす」の伝統に戻ったような気がする。周辺国が貢ぎ物を捧げる代わりに、中国皇帝は安全を保障し、莫大(ばくだい)な賞賜(しょうし)を与えるような姿だ。その意味で日本はまるで東夷(とうい)とみなされかかっている。日本の報道もそのペースに巻き込まれて、愚かだ。最も愚かなのはNHKで、「中国側は、首脳会談に応じるかどうか明確にしていません」とやっている。問題のとらえ方は「中国が応じる」のではない、全く逆だ。会談の必要を感じているのは中国側であることが分かっていない。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を成功裏に終わらせたいのは中国国家主席・習近平であり、そのための「軟化」は既に半年前から始まっている。習が愕然としたのは5月のシャングリラ会議だ。地球俯瞰外交が成功して、力による現状変更を批判した首相・安倍晋三の主張に、ASEAN諸国や米国が同調、中国は完全に孤立した苦い経験がその教訓となっている。同じ事をAPECでやられることを何が何でも回避したいのが中国だ。だから南沙諸島や尖閣諸島での刺激的行動を控えているのだ。とりわけ9月3日の「抗日戦争勝利記念日」に当たって、習は「中国政府と人民は中日関係の長期的な安定と発展を望んでいる」と言明、これが大きなきっかけとなって、日本側もAPECにおける首脳会談に向けて本格的に動き出したのだ。

 ところがこれに「日本が引っかかった」と見た中国側は、まるで「会ってやる」の傲慢なる朝貢外交に変わり、無理難題を持ちかけるようになったのだ。焦点の靖国問題では、福田康夫は7月の習との会談で暗に安倍が靖国参拝をもう行わないであろうとの見通しを説明している。これに先立つ自民党副総裁・高村正彦の訪中でも、安倍のさらなる靖国参拝を否定している。それにもかかわらず中国側は、首脳会談をやるなら安倍自身が「参拝しない」と明言するように、裏で主張し始めたのだ。安倍にしてみれば、靖国参拝は精神の領域の問題であり、外交問題ではない。「私は在任中行きません」などという屈辱的な発言が出来るわけがない。尖閣諸島の領有権問題の存在も、日本が実効支配している以上譲れる訳がない。こうして国家安全保障局長・谷内正太郎が6日訪中して、ぎりぎりの詰めを行うことになった。筆者は以前から領土問題は「先送り」という「解決しない解決」しかないとして、万一の衝突を避ける海上連絡メカニズムで首脳同志が一致すれば十分だと主張してきたが、その対応が一番よい。儀礼に毛が生えた程度でも会うこと自体が両国関係にとってプラスであり、下手な譲歩をして将来に禍根を残してはならない。

 安倍を無視するかのように習近平は、中間選挙大敗のオバマを「買い」に出ようとしている。長時間の会談はもちろん、あらゆる趣向を尽くしてもてなし、駐米中国大使は「サープライズまで用意している」という。米国内で相手にされないオバマを「落ち目買い」で恩を売って、伝統行事の日米分断を図ろうとしている。見え透いた田舎の村長のような心理作戦だ。安倍は構ったことはない、シャングリラ会議と同様に「力による現状変更を是認しない」方針を首脳会議で堂々と主張して、中国の膨張主義への批判の先頭に立てばよい。さらなる弱みが習近平にある。最近の宝石珊瑚密漁事件について日本の右翼の間では中国政府の息がかかっているというもっともらしい主張が強い。評論家・桜井よしこがテレビで燃料代300万もかけて2000キロもやってくるわけがないと強調し、「政治的な背景がある」などと勝手な断定をしているが、単純すぎて噴飯物だ。中国でAPECをにらんだ反習近平派の政権揺さぶりの動きが生じていることを見逃している。香港の民主化要求デモの背後に中国反体制派の影があるのは常識である。どうも普通なら正面から批判する安倍が大人しいし、台風での漁船の一時領海内への避難を認めたりして対応が優しいと思ったら、理由がある。日中外交筋によれば珊瑚事件も香港のケースと類似して、反体制派が反日団体を使って、漁民を駆り立てている大陰謀の可能性が強いというのだ。反体制派は日本を使って習体制を揺さぶろうとしているのだ。安倍も官房長官・菅義偉も慎重なのはその手に乗ってはならないからではないか。

 珊瑚はバブルの象徴で投機の対象になっている。漁民に珊瑚を見せびらかせて「日本近海にいっぱいある。儲かるよ」と持ちかければ、もともと武装訓練まで受けた海賊のような漁民はすぐ扇動される。確かにAPEC直前になって習がなによりも大事な会議の成功を毀損するような動きに出るわけがない。その証拠には中国外務省の対応も珍しく「猫撫で声」なのだ。副報道官・洪磊は最近2度にわたって「日中協力」を口にした。「日中お互いの法執行機関が良好な協力を行い、問題を適切に解決して欲しい」のだそうだ。「協力」とは「泥棒では世間体が悪いから、APECで発言しないよう協力してくれ」ということでもある。しかし安倍は「協力」するのは考え物だ。珊瑚事件で問われているのは習の統治能力であり、習近平体制はAPECを前にして極めてまずい内情をさらけ出しているのだ。珊瑚事件は他人の家に忍び込んで300年物の盆栽を盗むのと同じ窃盗行為であり、安倍は遺憾の意を表明し、早期に統治能力を発揮するよう指摘して当然だ。
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