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2014-11-03 00:36

(連載2)アメリカ国防の政争化を憂慮する

河村  洋  外交評論家
 オバマ氏のリーダーシップはアメリカの国防にどのような悪影響を与えたのだろうか?ルイジアナ州のボビー・ジンダール知事は10月6日にアメリカン・エンタープライズ研究所での講演で、オバマ政権の根本的な欠陥を概括している。ジンダール氏の主張の基本的な論点は「現在の世界の安全保障の不安定化は、アメリカが国際公共財の提供者という特別な役割を担い、世界秩序の道義的な責務も負っていることを否定するオバマ氏の外交政策観がもたらした結末だ」ということである。またオバマ政権による非関与政策によって同盟諸国の間でアメリカに対する信頼感が低下している。ジンダール氏が述べるようにオバマ氏の外交政策は「馬鹿げたことはするな」以外の何物でもなく、これではブッシュ政権のアプローチを否定しただけに過ぎない。オバマ政権が犯した最も致命的な誤りは「ロシアや中国のような従来からの脅威に加えて、アル・カイダやISISのような非対称的な脅威まで、多様な脅威が台頭する時勢において、国防費の削減に踏み切った」ことである。広く知られているように、ジンダール氏は2016年の大統領選挙で共和党の指名を受ける可能性がある有力候補の一人である。重要な点は、ジンダール氏が財政保守派でありながら賢明な支出に基づく国防費の増額を強く訴えることによって、党内の財政支出削減重視派と国防力強化重視派の立場の違いを埋めようとしていることである。

 さらに重要なことに、オバマ氏陣営内部からも現政権の国防政策への批判の声が挙がっている。ロバート・ゲーツ元国防長官が回顧録を出版した際に「オバマ氏は自らのアフガニスタン戦略に自信もなく、イラクに関しても自分の周囲にいる軍事スタッフを信用していなかった」と記している。ゲーツ氏によるとオバマ氏はイラクとアフガニスタンからの早期撤退にとりつかれていた。共和党政権から留任していたゲーツ氏がオバマ氏の国防政策に批判的なことは、ある程度は予期できる。また、ヒラリー・クリントン元国務長官も「オバマ氏が自由シリア軍を支援しなかったために現地でのジハード主義者達の台頭を許した」と批判している。民主党員ではあるが、クリントン氏は2016年の大統領選挙に出馬する身であり、自らとオバマ氏の立場の違いを明確にしておく必要がある。しかしレオン・パネッタ氏が今秋にオバマ氏を批判したことは衝撃的であった。パネッタ氏は長年にわたる民主党員で、現政権の下でCIA長官や国防長官といった閣僚ポストを歴任した。クリントン氏とは違いパネッタ氏は大統領選挙で競争相手になったこともないため、本来ならゲーツ氏やクリントン氏よりもオバマ大統領に忠実であってもおかしくない。

 パネッタ氏は回顧録の中で「オバマ氏はイラクに2万4千人規模の米軍を残留させるようにというパネッタ氏の進言に耳も貸さず、当地からの撤退しか頭になかった」と記している。パネッタ氏と共にミシェル・フローノイ国防次官と軍部高官も撤退後の混乱に深刻な懸念を示した。しかしオバマ氏はそうした分析を「捏造で間違い」だとして一蹴した。それが現在のようなISISの暴虐を許してしまった真の原因なのである。これはオバマ氏が国防に関して理解を書いているばかりでなく、脅威の認定もできなかったことが原因でもあるが、もっと根本的なことは、超大国の地位を投げ出しても良いという彼の思想こそ問題視すべきである。言い換えれば、オバマ氏はノーベル平和賞の受賞者として、アメリカの国防を政争化したのである。

 皮肉なことに、オバマ大統領の国防を担う能力が低いことは、超党派のコンセンサスの醸成には一役買うかも知れない。オバマ氏は2008年の大統領選挙において「リベラルのアメリカも保守のアメリカもない、一つのまとまったアメリカがあるだけだ」と演説した。今やリベラルのアメリカも保守のアメリカもオバマ氏にあきれている。外交政策形成者の仲間の間で形成される共通の理解によって、厭戦気運の世論と両党の党内分裂を乗り越えられるだろうか?次期大統領が誰であれ、そうした動きが公益に役立つことを望む。(おわり)
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