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2014-10-20 05:49

小渕辞任は老舗政治家令嬢の業

杉浦 正章  政治評論家
 小渕優子の経産相辞任は本来ならよくある一過性辞任劇で幕引きとなるところだが、法相・松島みどりへのドミノ倒しが懸念され、首相・安倍晋三は政権600日余にして大きな難問を抱えるに到った。1番よい解決は松島が一身上の都合で「自発的」に辞任して、後任を早く決め、一週間で決着することだが、松島はそう簡単には辞めないだろう。おまけにただでさえ女性閣僚がやり玉に挙がって、対中関係が微妙なときに、よりによって総務相・高市早苗、拉致問題担当相・山谷えり子、女性活躍担当相・有村治子の三閣僚が靖国を参拝した。まさに女性閣僚が外交・政治の現状を読めないことの左証であり、「女難」が安倍に降りかかっている。小渕問題は端的に言えば、筆者が当初から指摘したように、古典的な選挙区接待である。初代小渕光平の創業以来3代70年にわたる老舗の令嬢政治家が、その老舗の裏庭にあったトラバサミに気付かず、外れない“わな”にかかってしまったことになる。光平は6回出馬して4回落選するほど選挙に弱かった。息子の小渕恵三も群馬3区という宿命の選挙区を受け継ぎ、苦戦を強いられた。同区は福田赳夫、中曽根康弘、小渕恵三、山口鶴夫の事実上の指定席となっていたが、選挙戦は熾烈を極め、上州戦争と呼ばれるほどであった。

 恵三が自嘲(じちょう)気味に「ビルの谷間のラーメン屋」と嘆いた言葉は、選挙区の苦闘を物語るものであった。中選挙区の習いとして有権者へのあの手この手の供応も日常茶飯事であり、おそらく観劇なども恵三時代から続いていたものであろう。関東一円の政治家はバス旅行の観劇が最大の選挙区対策であったのだ。その地盤の風習というか因習を打破することなく、小渕優子は無批判に受け継いでいたことになる。本来小選挙区制になれば、選挙は政策で争われるはずであるが、日本的な接待の風習は、大なり小なりいまだになくならないで継続しているのである。令嬢というか、姫様は、先祖代々続く地盤を引き継いで、その上にすわって「よきにはからえ」と、「週刊新潮」が暴くまで気づかなかったのだ。選挙区は選挙区で「爺や」たちが「お嬢に金の心配はさせられない」とばかりに、ろくろく報告もせず、御輿を担いでいたのだ。繰り返すがあまりにも古典的な風潮であった。

 入閣前の身辺調査が甘かったことは否めない。小渕の場合は、既に閣僚を経験しているから、甘く対処したのだろう。もっとも選挙区事情まで調査対象にするのは難しいことでもある。松島の場合も、選挙運動絡みの調査が欠けていたが、答弁や態度を見ると、今後は閣僚としての適性を見定める調査も必要となる。そこで小渕の「女性首相」への展望がこれで一挙についえるかといえば、そうはなるまい。即決辞任で事を荒立てない方針が正しいからだ。もともと「小渕優子首相説」などはマスコミが作った幻想であるが、筆者の見るところ恵三よりは政策的な素質がある気がする。これまでも歴代首相で、過去に政治資金規正法に引っかかりながら、首相になった例など山ほどある。それよりも、大疑獄事件をくぐり抜けて首相になった例も枚挙にいとまがない。佐藤栄作は造船疑獄で法務大臣・犬養健が指揮権発動したことにより逮捕を免れた。田中角栄は炭鉱国管疑獄で逮捕されたが、二審で請託の事実が認められないとして逆転無罪となった。福田赳夫は昭電疑獄で収賄罪容疑で逮捕されたが無罪。中曽根康弘はロッキード事件への関与を疑われ、側近の佐藤孝行が逮捕されたが、児玉ルートは口が硬く、自らの身には司直の手は及ばなかった。

 はっきり言って、政治資金規正法や公職選挙法違反が将来の首相の座に最大の障害になることはない。しかし、今後野党は、証人喚問などを要求して追及を続けることが予想される。問題は選挙区の態勢を立て直せるかどうかだ。おそらく民主党は相当な候補を対抗馬に擁立して、“群馬決戦”を狙うだろう。野党が統一候補を擁立するかも知れない。落選してしまっては一巻の終わりだ。野党は民主党幹事長・枝野幸男が鬼の首でも取ったかのように息巻いているが、週刊誌の受け売りで威張ってもらっても困る。小渕辞任によって、この事件自体は早期収拾の方向だろう。内閣支持率は多少は下がるが、民主党の支持率を上げる方向には絶対に向かわない。離れた支持層は浮動票化するだけだ。問題は団扇の松島、「靖国参拝の右寄り閣僚」など次々と女性閣僚起用が逆効果になっていることだ。民主党は10月17日、「うちわ」問題で松島を刑事告発しており、大臣を告発されて法務省内が混乱を来すのは必至だ。威令も届かなくなる。加えて、毎日新聞の調査で、女性の反対が何と67%に達しているカジノ法案を安倍が先頭に立って成立させようとしている。このままでは安倍の狙いとは逆に、女性の支持票が負のスパイラルで落ち込んでいくことが最大の懸念となってきた。
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