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2014-10-16 09:59

(連載2)日本は常任理事国入りよりも国連安保理改革を重視せよ

河村  洋  外交評論家
 よって日本は、自国の虚栄心を満たすためのロビー活動を行うよりも、意思決定も行動もできない現在の国連安保理に何か根本的な変化を促すような提案をすべきである。私は別に常任理事国であることの利益を完全に否定するわけではない。先のスコットランド住民投票を前に、イギリスのジョン・メージャー元首相は「スコットランドが独立してしまえば、我が国は国連での最高の地位を失うことになる」と言って重大な懸念を示した。しかし日本の立場は既存の常任理事国とは大きく異なり、これからその地位を勝ち取るには難しい障害を乗り越えるために多大な労力を費やさねばならない。何よりも日本が常任理事国になれたとしても、何ができるのか?最悪の場合は、世界中を敵に回してでも国連安保理で拒否権を行使する覚悟が日本にあるのか?名誉ある地位に昇格すれば、日本は世界を変えられるのか? 合理的に見れば、どれも全く当てはまらない。

 ここで思い出すべきは、サウジアラビアが昨年10月17日に「安全保障理事会はイランの核問題やISIS危機などの中東の安全保障の重要案件に対して何の決断も行動もできない」という理由で、非常任理事国の座を降りたことである。サウジアラビアにとって、現在の国連安保理など役立たずで、無力で、無価値だと言うことであろう。国連安保理の理事国であるための負担やその地位を得るための労力を考慮すれば、日本の国益には必ずしも見合うと思えない。この問題に関する限り、私はサウジアラビアの判断に大いに同意する。忘れはならないことは、現在の常任理事国の地位は、始めから与えられたものだということである。そうした事情からすれば、メージャー氏がスコットランド住民投票の前に述べた懸念も、イギリスにとっては当然である。しかし五大国でもないその他の国々にとって、安全保障理事会の理事国ともなれば非常任理事国への選出でさえ大変な労力で、ましてや常任理事国への昇格ともなればなおさらである。日本がどれだけ労力を注いでも、最終的には中国の拒否権で葬り去られる。そのような成果の望めないことに労力を注ぐことを繰り返す理由はない。

 しかし、基本的で普遍的な課題を持ち出せば、変化への機運を作り出すこともできる。アメリカが国連決議案よりも有志連合を重視しているのは、冷戦後も安保理ではロシアや中国の拒否権によって緊急時の行動が阻まれてしまうことに、世界のどの国よりも不満を抱えているからである。これはブッシュ政権が国連批判の急先鋒であるジョン・ボルトン氏を国連大使に任命したことに典型的に表れている。民主党政権であれ、共和党政権であれ、アメリカの政策形成者の間では国連の現行意思決定システムへのそうした不信感は広まっている。国際社会からすれば決定も行動もできない安保理こそ問題であって、各国の序列などは枝葉末節の問題である。

 日本が本当に安保理を変えようと思うなら、根本的な構造の問題をこそ重視すべきである。その方が世界からの支持も集まる。拒否権の問題に関しては、常任理事国1ヶ国の単独拒否権制から、2ないし3ヶ国の共同拒否権制に変更するという私案を示したい。常任理事国の地位を得たとしても、日本には単独行動などできない。単独での拒否権など日本には使い道がないのである。首相が誰であれ、日本の資金と外交努力は正しい目的に向けて適正に使われねばならない。どのような行動も愛国的情熱と虚栄心だけに基づいているなら無用で無価値である。(おわり)
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