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2014-10-15 06:33

日中首脳会談は関係改善だけで大成功

杉浦 正章  政治評論家
 自民党副総裁・高村正彦が日中首脳会談について「機は熟しつつある。後は首脳の決断」と発言している。これから読み解けば、11月10、11日の北京におけるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を機会に、首相・安倍晋三と中国国家主席・習近平の会談は実現する方向だが、その内容は習の決断にかかっているということだろう。習の決断とは、尖閣問題の“先送り”で納得するかどうかであろう。高村が「何が何でも前提条件をのまなければいけない、などと言うべきではない」と述べているのは、水面下の交渉でなお中国側が領土問題の存在を日本が認めることに固執している事を意味する。日本側は「ありえない」(政府筋)としており、首脳会談は関係改善の第1歩として不測の事態回避を確認する流れとしたい考えだ。

 両首脳も、すくなくとも相違を際立たせる流れにはなっていない。安倍が「日中両国に問題があればあるほど首脳同士が会って話し合うことが必要」と述べれば、習は「中国政府と人民は中日関係の長期的な安定と発展を望んでいる」と言明するなど、いずれも前向き姿勢だ。首脳会談に向けての接触も、日韓関係に比べるとその頻繁さにおいて雲泥の差が見られる。驚いたのは7月の習と福田康夫の会談に国家安全保障局長・谷内正太郎が同席していたことだ。まさに和製キッシンジャーが隠密外交を展開していたことになる。同席が効果的だったのは、以後中国側が急速に軟化し、せきを切ったように接触が始まったことで分かる。安倍の首脳会談に向けての真意が習に伝わったのであろう。外相・岸田文男は中国外相・王毅と8月、9月の2回にわたって会談。日中政府は9月には不測の事態防止のための「海上メカニズム」協議の再開で合意。10月7日には習の幼なじみである中国人民対外友好協会会長・李少林と安倍がバレー鑑賞の名目で会談。この場には谷内とアジア州局長・伊原純一が同席。伊原はその後11日に隠密裏に訪中、APEC首脳会談への根回しを続けている。こうした折衝を通じて中国側は領土問題が尖閣諸島を巡って存在することの確認を日本側に迫っているようだ

 靖国参拝については、既に5月の高村訪中や、福田・習会談で、安倍がその気はないことを伝達しているようであり、首脳会談の問題になる気配はない。しかし領土問題については、議題に上がれば双方の主張が激突することになり、激突してしまっては今回の会談の意味がなくなる。とりわけ習にとってAPECの場は自らの存在を国内的に誇示する場であり、安倍を怒らせて、会議がシャングリラ会議のように中国非難一色になることだけは、何としてでも避けたいのだ。従って、ここは「尖閣棚上げは領土問題が存在することを意味してしまうから出来ない」のであり、問題を焦点にすることなく暗黙裏に先送りしてしまうことが一番の得策ではないか、と筆者は思う。先送りして経済・文化交流を進め、同時に不測の事態回避の措置を取り、とりあえず日中関係を正常な軌道に戻す事だ。安倍は欲張る必要は無いのだ。それだけ実現すれば会談は大成功と言える。ただ先にも警告したが、中国がAPEC向けの「いい格好しい」になる危険は常に念頭に置く必要がある。「APECが終われば、また海洋進出」という事態は十分考えられるからだ。

 先に合意した海上メカニズム構築の協議を日本政府が月内にも開始するように対中打診したのも、関係改善に本気であるかどうかのリトマス試験紙なのであろう。もちろん長期的には膨張路線をとる中国に対する抑止策は維持せざるを得ないのが、極東安保上の構図である。このため安倍はAPEC直後にブリスベンで11月15~16日に開かれるG20サミットの場で米大統領・オバマ、オーストラリア首相・アボットと7年ぶり2回目の会談を予定しているのだ。日米豪の安全保障上の協力は極めて強い対中抑止力になることは間違いない。一方で韓国大統領・朴槿恵との会談は当分する必要はないだろう。産経記者を自らの“私闘”で起訴した朴への批判は、さすがに韓国のメディアにも生じている。財界からも円安がもたらした経済的窮状に悲鳴とも言える声があがり始めた。朴が頼りにする中国が日本と関係を改善したとなれば、韓国は極東において孤立する。いくら従軍慰安婦問題を声高に叫んでも、日本は逐一反論する方針を閣議決定している。歴史問題は朴が騒いでも世界には「日本を公平に見てほしい。70年前の行動ではなく、今日の行動で判断されるべきだ」(アボット)という国際世論が出始めている。当分韓国に関しては花札のモミジでいくしかない。鹿がそっぽを向いているから「シカト」だ。
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