国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-10-10 09:45

ロシアの圧力に苦しむウクライナ

小沢 一彦  桜美林大学教授
 今夏の末に、日本から南周りで、「戦時下」のウクライナ・キエフを訪ねました。ドバイ・キエフ間は、ウクライナ国際航空を利用致しましたが、やはり機中でマレーシア航空機撃墜の記憶が消えることはありませんでした。まずはキエフの街の様子ですが、中世以来、多くの民族が移動・居住する中で、地理的中心に位置しますキエフの優位性は変わりません。街は独立広場を中心に、淡いブルーの「ロシア正教」の教会が立ち並び、古都といった風情のある所でした。一般市民の様子も、一見、平時と変わらぬ平和な状況に映りました。

 ただし、独立広場を中心に、「オレンジ革命」以降に、命を落とした人々の遺影ほか、弔う花束や蝋燭が、中心部の公園や街路などに並べられておりました。ウクライナもソ連崩壊後に独立を果たしましたが、その後のオリガルヒ(独占企業)支配や、親欧米派と親ロシア派の対立で、政治は混迷、経済も悪化の一途で、財政危機さえささやかれています。ウクライナ独立以来、「欧米に近づいて、EUやNATOに入りたい」親欧米派と、「何としてもロシアの緩衝地帯としてウクライナを中立化したい」親露派の間で、ずっと綱引きが続いているのです。「戦時下」で一番困るのは、やはりハード、ソフトを通じた、ロシアからの圧力です。風光明美で軍事都市でもあるクリミア半島は、事実上「ロシア領」ですし、ロシアからのエネルギー資源ほかの物資の規制で、ウクライナの一般市民は苦しい日常生活を送っております。食料品すら値上がりや物資不足で十分に手に入らずに、「銃後」でも何とか生き延びる戦いを強いられておりました。
 
 さずがに、東部ウクライナは危険地帯で接近は諦めましたが、キエフ訪問時の情勢は、ウクライナ正規軍と、親ロシア派勢力の力が拮抗。今後のロシアによる親露派支援の規模によっては、東部地域のロシア入りの可能性すら感じました。現在、考えられます今後のシナリオは、(1)ウクライナ正規軍が欧米の支援を受けて、親露派を制圧し、ウクライナの統一と統合を維持する、(2)親露派がロシアの不透明な支援を受け、東部地域で勝利を収め、独立を果たす、(3)「泥沼の内戦」を避けるため、親欧米派と親露派が妥協し、国際機関の仲介仲裁で、「連邦制」などの高度な自治権を東部地域に与えることで、停戦する、などが考えられます。

 日本政府は、北方領土問題などを抱え、ロシア外交を大切にして参りましたが、現時点での宥和政策は、西側で孤立を招く可能性があり、諦めざるを得ません。欧米と同調した日本の対ロ政策で、プーチン大統領は激怒し、アジア太平洋方面で軍事演習などの対日圧力を強めております。しかし、あまりロシアを叩くことは、露中協力関係(「大ユーラシア同盟」)を深めさせ、西太平洋の不安定さを高める懸念があります。ここで、西側と同調して、ロシアのウクライナ「侵略」を制裁するのか、ロシア外交に柔軟性を持たせるため西側と距離を置いて、柔らかい制裁で止めるのか、安倍政権の対ロ外交にとって、その動向が注視されるところです。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム