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2014-10-09 06:48

カジノの日本人利用先送りは、姑息

杉浦 正章  政治評論家
 10月8日の参院予算委審議を聞いていて、この国の政権の法解釈はどうなっているのかと首を傾げた。首相・安倍晋三が先頭に立ってカジノ導入の旗振りだ。昔の政治家はその点一本筋が通っていた。「倫理観」という筋である。後藤田正晴は法相時代「賭け麻雀自体はよくない」とごく初歩の賭け事にもクレームをつけた。それが今の首相は刑法185条で禁止されている賭博を解禁しようとしているのだ。最高裁でも「金銭そのものを賭けることはたとえ1円であっても賭博である」という判決が昭和23年に出ている。そもそも安倍は「IRについては」などと英語を使ってごまかそうとしているが、integrated resort とはカジノを含む総合リゾートのことであり、賭場を造ることに他ならない。安倍はシンガポールを訪れた際、IRを見学して世論の下ごしらえをしている。「カジノの収入は3%」と理論武装しているが、その3%の邪悪が問題なのだ。そもそも日本の伝統は「賭博は悪」なのである。日本書紀に持統3年(689年)12月8日に「禁断雙六(すごろく)」の記述がある。「双六」が中国から入って以来賭博として流行したため、財産を失う者も続出。そのために持統天皇が禁制を敷いたのだ。賭博禁止令が出されたのだ。おそらく国民性として賭博に熱中しやすい傾向が大昔からあったのだろう。

 最近の調査でも、ギャンブル依存症の疑いがある人が推計で536万人に上ることが、厚生労働省研究班の調査でわかった。成人全体で4・8%、男性に限ると8・7%を占め、世界的にみても突出している。他国の調査では、成人全体でスイスが0・5%、米ルイジアナ州で1・58%、香港で1・8%だ。いまのパチンコですら「中毒」状態の主婦が、家庭を壊している悲劇など腐るほどある。安倍はIRが「投資や雇用を促進し、観光客を増やす」と述べているが、投資とは寺銭を回り回って国家がもうけるための投資か。雇用とは「鉄火場」でサイコロを振るツボ振リやこれを監督する中盆など胴元のことか。それとも賭場での食事をしやすくするために考案された鉄火巻きを巻く職人のことか。カジノ法案を推進する超党派議連の姑息(こそく)な対応も目立つ。カジノ解禁法案に日本人のカジノ利用について、「別の法律で定める」などの文言を盛り込み、修正案を成立させて先送りしようとしているのだ。根強い反対論をかわして解禁法案の今国会成立を優先させるのが狙いだ。要するに外堀を埋めようとする狡猾な対応だ。

 しかし、これは誰も気付いていないが韓国の猿まねだ。韓国は2000年にカジノを合法化したことで多くのカジノが誕生したが、国内の反対を避けるため当初は外国人専用にする予定だった。しかしそのうちに韓国人がプレーできる「江原ランドリゾート」がソウル近郊に出来たのである。大変な人気で、週末の開店時刻ともなると1000人規模の行列ができることも珍しくないという。賭博依存症の患者も増える一方だという。議連はその「先進国」の“手口”を真似ようというわけだ。予算委では共産党の大門実紀史が「外国人ならカネを巻き上げていいのか。カネを巻き上げて何がおもてなしだ」と食いついたが、共産党にしては珍しく正論を吐いた。安倍はIR推進を目指す「国際観光産業振興議員連盟」の最高顧問だが、大門が「首相がカジノなどを進める議連の最高顧問であるのはふさわしくない」と指摘したのに対し「指摘はごもっともかもしれない。辞めさせていただく」と述べ、役職を辞する考えを示した。当然である。どうもカジノ法案に関する限り安倍はバランス感覚を失っているとしか思えない。

カジノは国内外の反社会勢力の巣になり得ることも懸念材料だ。暴力団が不正な資金の洗浄に使う可能性が高い。ギャンブル依存症に陥る人が出るのは避けられない。自民党議連関係者は日本人のカジノの利用について「ギャンブル依存症への対策などを講じたうえで改めて実現したい」と述べているというが、「国民性」をそう簡単に直せるのか。馬鹿も休み休みに言えと言いたい。国民をだましてはいけない。朝日新聞社の世論調査では、59%が解禁法案に「反対」で、「賛成」は30%にとどまっている。国論は2分どころか反対が多数だ。強行すれば安倍の支持率に影響することは間違いない。今からでも遅くはない。法案が通らなければ「賽(さい)は投げられていない」のだ。安倍は目を覚まして邪悪なる種を悪魔がまくような姿勢を改めよ。総合リゾートは、健全なディズニーランドがあれば十分だ。オリンピックに間に合わせるというが、スポーツの祭典オリンピック精神を全く理解していない。
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