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2014-10-01 06:57

解散のかの字もなく臨時国会開幕

杉浦 正章  政治評論家
案の定冒頭の代表質問は解散のかの字も出なかった。従って安倍は答弁する必要すら無かった。さすがの民主党代表・海江田万里も、維新の党共同代表・江田憲司も恥ずかしくてピント外れの解散質問などできなかったのだろう。産経などが一時は本気で今秋解散を報道したのは、そのレベルの判断能力と見れば済むことだ。テレビ評論家・田原総一郎が内閣改造後に「安倍さんは、是が非でも自民党総裁に再選されたいと願っている。そのためには、今回の内閣改造を経て、経済、外交で支持率を上げて、このタイミングで国会を解散すれば、総選挙に勝つことは間違いない。ボクは踏み切ると思う」ともっともらしく述べていたのも、そのレベルの政治評論でしかないと思えば済むことだ。筆者が指摘してきたとおり今国会の解散などあるわけがないのである。しかし民主党幹事長・枝野幸男の誤判断だけは痩せたりとはいえ一党を率いる幹部の発言としては看過できない。枝野は「私が安倍さんならこの秋に衆院選をやると思っている。下手をすると解散は臨時国会の冒頭かもしれない。覚悟はしていなければならない」と警鐘を鳴らした。最近では「11月9日投票」とまで言及した。しかし、冒頭解散などなかった。この間違いは大きい。

 幹事長がこれだけはっきり見通しを述べれば、党員は「すわっ」とばかりに選挙準備に取りかかる。おまけに民主党は9月30日の常任幹事会で国政選挙対策本部まで新設している。幹事長が狼少年になって、政局判断を間違えたのでは就任早々から失格の烙印を押さざるを得ない。それにしても海江田も江田も「アベノミクスの失敗」で共闘して対決姿勢を打ち出すのなら、「首相は国民の信を問え」と緩んだ政局をすこしはピリッとさせる発言くらいすべきであったが、触れない。きっと解散が怖いのに違いない。その共闘姿勢だが、江田の代表質問後に民主党席がやんやの拍手をしたからおかしいと思って調べたら、民主党は事前の代議士会で国対副委員長・笠浩史が「維新の質問に激励をお願いしたい」と異例の呼びかけをしていたということだ。要するにやらせの拍手だ。なぜそこまでやるかと言えば、“束になって”かからないと一強自民党政権にかなわないからに他ならない。この結果、代表質問では、一応“束”にはなった。しかし、民主党内にも維新にも野党再編論などはまだまだ本気で語られる段階にはなく、「竹の束」にも到らぬせいぜい「わら束共闘」だ。

 おまけに代表質問を聞いていて、この二人の質問は本当に党を“代表”した質問なのかと疑いたくなった。党内論議をクリアしていない重要事項を独断で質問しているからだ。海江田は集団的自衛権の行使容認の閣議決定について「立憲政治の否定だ」と党内左派の立場だけを代弁したが、右派は容認であり、決着はついていない。江田に到っては自らの左傾化姿勢を露骨に打ち出して、まさに独断専行型の質問であった。少数の手勢を引き連れて入ったにしては態度が大きすぎるのだ。基本的に共同代表・橋下徹と江田は安倍政権に対する距離感が離れすぎている。原発再稼働でも江田は「安全に誰が責任を持つのかはっきりしないで再稼働すべきでない」と反対の立場を鮮明にさせたが、橋下は再稼働容認だ。集団的自衛権の行使については橋下が容認、江田が事実上の反対論だ。両者はこれら亀裂要因に蓋をしたまま新党を立ち上げたが、自民党からちょっとくさびを打ち込めば早期分裂もあり得る状況にあると見てよい。

 焦点の消費税に関しては、自民党幹事長・谷垣禎一の質問に「おやっ」と思った。谷垣は総じて安倍に対する「盲目の愛」のようなヨイショ質問を延々と繰り返したが、消費税に関しても持論を抑制した質問をしたのだ。谷垣はこれまで「上げたときのリスクは手の打ちようがあるが、上げなかったときのリスクは非常に不安がある。上げられるよう対策を打つことが必要だ」とか、「再増税は法律もあり自明のこと」と再増税に前のめりの発言をしてきた。ところが、代表質問では「デフレ脱却を柱とする日本経済再生と持続可能な社会保障制度の確立のための財政健全化はいずれも喫緊かつ重要な課題。これを踏まえた上での消費税引き上げについてうかがいたい」と、明らかにトーンダウンした。首相官邸との事前の調整があった証拠であり、谷垣に対して官邸サイドから持論を封ずる何かがあったのだろう。一方海江田も消費増税をした場合の社会保障の充実を確約するように安倍に求めるにとどまったが、最後に「安倍政権と異なる選択があることを国民に示す」と不気味な締めくくりかたをした。これを枝野が、定数削減が実現しない場合を想定し、「本当に定数削減の約束を最後まで守ってもらえないのであれば、(引き上げに反対するという)ちゃぶ台返しもせざるを得ないということは、当然視野にある」と述べ、自民、公明、民主の3党で合意した消費税率引き上げに反対する可能性を鮮明にしたことと考え合わせると興味深い。定数是正を口実にして消費再増税反対に踏み切る可能性が出てきたことを意味するからだ。
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