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2014-09-14 00:14

ユーラシア・ハートランドに「中ロ勢力圏」誕生か

川上 高司  拓殖大学教授
 ウクライナでは、親ロシア派武装勢力がウクライナの国際空港を制圧し、ウクライナ軍が空港から撤退した。ウクライナ政府は「ロシアが戦争を始めた」と非難しているが、ロシアは親ロシア派には軍事支援はしていないと否定、相変わらず主張は並行線である。EUではさらなる経済制裁をロシアに課すべきだとの強硬論が日ましに強まり、ヨーロッパの中ではプーチン大統領と親しいドイツのメルケル首相の立場が苦しいものになりつつある。

 昨年11月にウクライナで問題が起こって以来、メルケル首相とプーチン大統領は公式には25回の電話会談をもった。実際にはそれ以上の会談が行われたとも言われているが、そのすべてがウクライナに関することだった。ワールドカップの決勝戦の会場で談笑する2人の姿が目撃されているが、それほどに2人は緊密なやりとりを継続してきている。ロシアにとって、メルケル首相は関係のこじれたヨーロッパの中でロシアに理解があり信頼できる外交ルートとして重要な存在だった。一方ヨーロッパにとっても、メルケル首相はロシアの真意を測り交渉可能な外交ルートとして期待が高かった。

 だが、10か月をすぎてもヨーロッパとロシアの関係は改善せず悪化の一途を辿っている。ドイツも他のヨーロッパ諸国の圧力に配慮してロシアへの経済制裁にも加わるようになった。つまりメルケル首相の電話外交は失敗しつつあるということだ。これから冬に向かうヨーロッパにとって、ウクライナ問題が解決しないことは、ロシアからの安定した天然ガスの供給が期待できないということを意味しており、代替供給先の確保がヨーロッパにとっては急務となりつつある。

 一方ロシアも、供給先をヨーロッパに依存するのではなく、多様化しなければならない。プーチン大統領は中国へのパイプライン敷設工事を始めると発表し、2019年のガスの中国への供給開始を目指す。東シベリアのチャヤンダガス田から4000キロメートルのパイプラインが敷設されれば、今後30年間で4000億ドルのガス契約が現実のものとなり、中ロの関係は強まっていく。ロシアは中国に対して東シベリアの石油プラント開発への参加にゴーサインを出すなど、中国との関係強化はますます深化する。ヨーロッパとの関係悪化がロシアの関心を東へと向けさせ、中国へと接近させたが、世界の警察官を降りて孤立主義に向かうアメリカの方針と相まって、ユーラシア大陸のハートランドに「中ロ勢力圏」が確立することのインパクトは大きい。
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