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2014-09-11 12:30

「慰安婦問題」の汚名返上には大局的戦略が必要

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 先月、朝日新聞が「従軍慰安婦」の強制連行に関する、いわゆる吉田証言を誤報と認めたことを契機に、河野談話の見直しあるいは撤回、国連での広報活動強化などへの主張が高まっている。特に、後者に関しては、9月5日の菅官房長官の記者会見でも、吉田証言に基づき、日本が「性奴隷」を強制連行したとする、クマラスワミ・レポートの不適切性を引き続き指摘していく、と述べている。我が国に着せられた謂れなき汚名を雪ぐのは当然のことだが、「事実に基づいた正しいことを言えば理解される」といった、単純な発想は排されなければならない。まず、日本がこの問題で置かれている立場をよく理解する必要がある。河野談話が発せられたのは1993年、クマラスワミ・レポートが出されたのは1996年であり、長年の積み重ねにより、日本が「性的奴隷」を強制連行したというのが、国際的共通認識になってしまっており、日本の積極的な味方は皆無と言ってよい。この国際世論戦では、全面勝利ではなく、批判を最小化することに目標が置かれるべきである。河野談話や広報活動をどうするかは、そうした観点から、戦略的かつ慎重に考える必要がある。

 まず、河野談話については、吉田証言とは直接的な関係はない。6月に発表された、検証プロジェクトチームの報告書によれば、河野談話は、事実関係の正確さを後回しにしてでも、「日韓友好」のお膳立てをするために、日韓政府間で文言のすり合わせがあったことが明らかになっている。したがって、河野談話は、事実上死文化したと言ってよい。これを破棄したり新談話を発したりすることは、わざわざ蒸し返し、日本が反省していないとか、人権意識に欠けるといった非難を付け入らせる隙を作りかねない。しかも、政府は一旦、河野談話を継承すると発表しており、見直しは、朝令暮改の誹りを免れない。むしろ、6月の検証結果とあくまでセットで当面は継承することを、大々的に宣伝する方が良いのではないか。それは、河野談話の真の意味を周知徹底し、死文化を完全なものにすることであり、韓国にとって必ずしも有利なこととはならないであろう。

 次に、国連での広報活動については、まず、アジア女性基金の創設など、日本が戦時中の悲惨な行為への償いにどれほど真剣に取り組んできたか、また、現在、如何に人権や女性の尊厳に真剣に取り組んでいるか、アピールしていくことが考えられる。そして、そういう日本ならば、「性的奴隷」の強制連行など無かったのではないか、そこまで行かずとも、過去(実際には無かった過去だが)を責める必要があるであろうかと、国際社会に少しでも思わせることが出来れば、成果があったとすべきであろう。この点でも、河野談話の当面の継承は、日本が戦時中の女性の尊厳に関心があるとの印象を与えるのに役立つであろう。なお、代案としては、黙殺することが検討に値しよう。

 最後に、米国との関係では、韓国の意向を聞き入れて日本に謂われなき中傷を浴びせることが、どれほど安全保障戦略上の観点から有害であるかを、米国に説く必要がある。ブレア元英首相の知恵袋であった、英国の外交官、ロバート・クーパーは、「アメリカのすぐ近くにまで接近し、アメリカの政策に合意しないことがあれば、それを直言することによって、アメリカ政府と国民にショックを与えるくらい、緊密になる必要がある」と述べているが、そのような関係である。そういう関係になれば、米国が、慰安婦問題のような取るに足らないことで日本を非難をするようなことは無くなるであろうし、日本としても「ノー」と言うことの効果が高まる。本来、慰安婦問題のような国家的恥辱には、直ちに断固として反論すべきであるが、そもそも日本人自身が自虐的に騒ぎ立てた側面が大きく、極めて遺憾ながら、溜飲の下る解決法というのは無いと覚悟する必要がある。朝日の報道があったからとか、まして、来年は戦後70年の節目の年であるから、といった理由で軽々に行動するのは自殺行為である。
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