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2014-09-08 11:18

世界同時争乱に日本は目覚めたか?

鍋嶋 敬三  評論家
 世界は異質の争乱の時代に突入した。ロシアのウクライナ侵略、中国の海洋進出によるアジアの紛争激化、イスラム過激派「イスラム国」の勢力拡大、ガザ紛争、アフリカのエボラ出血熱などの脅威が同時進行で多発している。米国のカーネギー国際平和財団は8月、「世界はばらばらになっていくのか?」というテーマのリポートを発表し、オバマ米大統領も2週間後に全く同じ表現を使った。「世界が極めて危険で予測不可能な場所になり得る」(リポート)という認識は共通している。ワシントン・ポスト紙はプーチン露大統領のウクライナ侵略が「冷戦以後、最大の東西危機の口火」となり、「イスラム国」の拡大はアルカイダの同時多発テロをはるかに超える「世界的大変動の兆候」と見る署名記事を掲載した。

 北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議は9月5日、ロシアの脅威に対し加盟各国が10年間に防衛費を国民総生産(GDP)比2%にまで増額、攻撃を受けた場合に48時間以内に駆けつける即応部隊の創設など、集団防衛の強化を決めた。欧州連合(EU)も対露追加制裁で合意した。NATO宣言で「国境を越えた脅威」と明記された「イスラム国」を壊滅させるため、米欧を中心に10カ国が有志連合を発足させる。世界に広がる争乱の背景は、米国の力の相対的低下に伴い、新たなプレーヤーの登場による力の拡散である。国連はロシアや中国が拒否権を持つ安全保障理事会の常任理事国であるため、「平和の維持」という最も重要な使命が機能不全に陥っている。NATOやEU、東南アジア諸国連合(ASEAN)などの多国間枠組みが辛うじて危機の連鎖と大爆発を抑えているにすぎない。

 同時争乱にどう対応すべきか。米国のピュー・リサーチ・センターとUSA TODAYの共同世論調査で、米国が世界のリーダーとして10年前に比べて「より重要」と答えた人は3分の1の15%に激減、「より重要でない」とする答えが2.4倍の48%に跳ね上がり、冷戦後の内向き志向が強く表れた。オバマ大統領の発言もイスラム過激派に対する「戦略を持っていない」とか、「世界はいつも混乱してきた」など漂流気味だ。オバマ外交についてニューヨーク・タイムズ紙は「効果のない政策で問題を悪化させた」などの批判に大統領が答えていないと指摘した。ワシントン・ポスト紙は「大統領は世界の問題にいかに対処しうるか集中すべし」と題する社説を掲げた。民主党支持の傾向が強い両紙からも手厳しい批判が突きつけられている。

 NATOのラスムセン事務総長は「ロシアのウクライナ侵略は起床の点呼」と語り、冷戦後の平和ぼけから目覚めるよう警鐘を鳴らした。同氏は「われわれの安全を当然視することができないことは今や明白だ」と防衛費増額の必要性を強調、「加盟国への攻撃はNATO全体との対決になる」とNATOの集団防衛条項を念頭にロシアに警告した。日本は単独で大国の侵略から国土、領海を守ることは困難だ。日米安全保障条約の下で尖閣諸島の領土の一体性も確保されている。しかし、同盟の本質は双務的なものである。一方だけ利益を受けるのでは同盟関係は成り立たない。集団的自衛権の本旨もそこにある。世界同時争乱に対する米欧の対応が日本にとって持つ意味合いは大きく重いものがある。

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