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2014-09-06 01:11

(連載2)ポストモダンと地政学

角田 勝彦  団体役員、元大使
 第一は単極、すなわち世界政府を含む「帝国」(覇権国)である。冷戦終焉直後フランシス・フクヤマが唱えた「歴史の終わり」もその変形だろう。帝国となるには、意思と能力(他国の受け入れをを含む)を必要とする。米国(オバマ)は意思を否定した。第二は多極、すなわち、少なくとも列強間での併存関係である。「新しい大国関係」を米国に提唱する中国の期待するところである。その後の「帝国」への野心が見えている。

 第三は無極である。G0(ゼロ)と呼ぶものもいる。テロ組織が横行する乱世につながる世界である。攻撃用兵器の発達により、地域的にせよ、その可能性は高まっている。第四は分極の世界である。「極」自体がソフトパワーを含め政治・軍事の分野以外からも考察される世界である。分野別に各種共同体が生まれ必要に応じ連携することとなろう。いわゆる「ポストモダーン」的考察においてもっとも受け入れやすい世界である。第五と第六は人類の歴史上経験されたことがない世界である。第五は科学技術の発達と結びつくSF的な黄金時代であり、第六は核や環境破壊などによる人類絶滅を含む暗黒の未来である。どちらも絵空事ではない。

 肝心なのは、極がどうなるかを考えるに際しては、とくに20世紀以降構築されてきた実定国際法の体系とそれを支える制度を基礎としなければならないことである。政治・軍事面では、国連憲章と安保理やNATOなどを中心に実施されてきた警察・軍事行動を無視してはならない。ウクライナを巡るEU・米とロシアの対立、中国の野心的台頭を見て「地政学の復活」(ウォルター・ミード)を論じる前に、拒否権を持つ国連安保理常任理事国にしても、恣意的な行動を行う前に熟考し、国際的反応を見ては撤回している例が少なくないことを忘れてはならないのである。また、小規模な問題であるが、イスラム国などへは多国籍軍による国際制裁も呼びかけられている。

 逆に平和や人権という崇高な目的のためであっても国連などでの手続きを無視して行動することは認められない。イラク戦争の開始を巡る混乱はデュー・プロセス・オブ・ローの問題に帰着する。地政学的恣意的行動は論外であるが、制裁を含む対応も正当な手続きによらねばならないのである。(おわり)
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