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2014-09-01 10:33

(連載1)平和は「手段」か「目的」か

西尾  亘  会社役員
 誰かと特定のテーマについて議論をしていて、なんだか話がかみ合わないなと思ったら、お互いまったく別のことが念頭にあった、ということがよくあります。とくに一つの言葉にさまざまな意味がある場合は注意が必要です。国際政治の世界では、たとえば「平和」などは、とかく誤解が生じやすい言葉といえます。ですから、「平和」なら「平和」を論じる際には、肝心の「平和」がどういう意味か、議論の交通整理をすることが何より重要だと思います。交通整理をしないまま議論をすれば、話がまったくかみ合わないのはむしろ当然のことでしょう。以下では私なりに「平和」について、交通整理をしてみたいと思います。

 さて、「平和」の意味を交通整理するやり方はいくつかあると思いますが、ここでは「手段」と「目的」という切り口で考えてみたいと思います。つまり「手段としての平和」と「目的としての平和」の二つです。そして、そのそれぞれを重視する立場を「手段としての平和」主義と、「目的としての平和」主義と呼んでみることにしたいと思います。「手段としての平和」主義とは、ある政治的目的を達成する手段として「平和的な手段」を重んじる立場を指します。この場合、「平和」的とは、おおかた「非軍事」的と読み替えられ、いかなる場合でも軍事的手段を用いない、ということが重視されます。この立場は、話の焦点が「手段に始まり手段に終わる」といった傾向を持ちますので、肝心の「目的」がないがしろにされかねない、という弱みがあります。

 他方、「目的としての平和」主義とは、最初に大きな目的、たとえば「平和な国際秩序を築く」あるいは「紛争地域を平定する」といった「平和的状況」の達成を政治的課題として設定し、その目標に向けて努力する立場を指します。この場合、その目的を達成する手段は、ある程度柔軟に解釈され、場合によっては軍事的手段を含みうる、とする立場です。この立場は、目的達成を重視するあまり、手段を柔軟に捉えすぎて手段に溺れかねない、という弱みがあります。いずれの立場にも「弱み」があり、そこを突けば、それなりに説得力があるようにも思えます。しかし、少なくともいえることは、これら二つの立場を二律背反で捉えることは妥当ではないということです。

 たんに一方を選択して他方を切り捨てればよい、といったものではありません。つまり、この二つの立場はある種の相互補完の関係に立っているといえます。しかし私見では、この二つの立場は対等ではありません。その関係には優劣ないしは主従が認められるべきと考えます。端的にいって「目的としての平和」主義は「手段としての平和」主義に優越するべきものだと考えます。なぜなら、「目的としての平和」主義は、目的達成を主眼に置いている以上、結果責任という「責任倫理」を引き受ける立場にあるからです。対して、「手段としての平和」主義は、手段のあり方に固執するだけですので、きびしくいえば「責任倫理」回避の方便になりがちだといえます。「責任倫理」を引き受けつつ、目的達成のためにあらゆる資源を投入することが「政治」の本分と考えれば、目的が手段に優越するということはいわば自明であるといえましょう。「政治に求められる倫理は、唯一責任倫理である」と語ったのは、たしかマックス・ウェーバーでしたか。(つづく)
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