国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-08-08 12:59

中国人におけるロジック

中兼 和津次  東京大学名誉教授
 以前、かつて日中覚書協定の交渉に立ち会った友人から次のような話を聞いたことがある。日中国交回復前、しかも文化大革命の最中で、中国が日本「軍国主義批判」を猛烈に展開していた頃のことである。田川誠一、古井喜実代議士らとともに「軍国主義」を巡って中国側とやりあったとき、日本側が「軍国主義なるものは平和な日本に復活していない」といくら説明しても、中国側は納得せず、こう切り出してきたという。

 つまり、「軍国主義とは何か、定義から始めるのはやめましょう。まず事実を確認していきましょう」といい、「右翼の三島由紀夫が切腹しましたね?(それに対して確かにそうです、と日本側が答えると)日露戦争を扱った映画の中で、ある男は舞台に上がり、スクリーンを日本刀で切り裂きましたね?」などと、次から次へ「右翼の活動」や「右翼的ムード」が日本で最近見られることの「事実」を取り上げ、日本側に確認を迫って来たそうである。そして最後に、「だから日本に軍国主義が復活しましたね?」と日本側に「証明」しようとしたという。中国でよくいう「実事求是」(事実の中から真理を求める)方式を実践したつもりなのだろう。しかし、何のことはない、定義の問題に戻ってきてしまったではないか。この話を聞いて、中国人におけるロジックとは何なのか、考えさせられた。

 もちろん、中国人は元来「非論理的」だというのではない。また上記のような日中交渉において、中国側担当者は「本音と建て前」を分けざるをえなかったことも分かる。しかし、誰が聞いても可笑しな論理を正規の交渉の場で堂々と展開してくることに、そして法とは1種のロジックであるだけに、中国における法意識、したがって法治の一端が、このエピソードにはしなくも露呈されているような気がする。

 あれから40年以上も経つのに、またぞろ中国で日本軍国主義批判が展開されている。軍国主義の確立した定義はないような気がするが、常識的に「全ての資源を戦争のために動員するような独裁体制や思想」と定義しておくと、戦前期の日本は確かに軍国主義体制だった。しかし民主主義の日本で軍国主義は相容れないし、民主主義を捨てない以上、将来も軍国化するはずもない。急速に軍備を拡大し、日本の数倍の軍備予算を持ち、かつ一党独裁の中国の方が、むしろわれわれのいう軍国主義に近い。ある中国の研究者に「日本のどこに軍国主義が復活するというのか?」と聞くと、「だって昔あったではないか」という答えが返って来た。


{php}
echo 123;
{/php}
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム