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2014-08-07 16:57

日本はモダーン国家か、ポストモダーン国家か

津守 滋  立命館アジア太平洋大学客員教授
 このフォーラムで第35政策提言「膨張する中国と日本の対応」を作成する段階で、日本はモダーン国家(たるべき)か、ポストモダーン国家(たるべき)かについて議論したが、この関連で、Walter Russell Mead が興味深い論考を発表している(”Foreign Affairs”May/June 2014)ので、紹介したい。

 ミードは、F.フクヤマやG.W ヘーゲルを引用して、「歴史の終焉」は、イデオロギー論争の終焉であって、地政学的争いの終わりではなかったとする。そして「修正主義勢力の報復」として、ロシアのクリミヤ併合、領土をめぐる中国の拡張主義的攻勢、イランの中東での影響力の拡大を挙げる。これに対しポストモダーン(ミードの表現ではpost-historical)の欧米諸国は、有効な対応策を打ち出せていないとする。その中で、日本は、ますますassertiveな戦略に依拠し、(再)勃興するナショナリズムで対抗しようとしているとする。つまり日本は相手方の土俵、地政学的抗争に引きずり込まれていると読める。

 中国の膨張主義や北朝鮮の核による脅威に直面して、日本が軍事面を含めて対抗策をとるのは当然である。この点安倍政権は次々と「モダーン国家的対抗策」を打ち出しているが、それは「ナショナリズムで包装されない限り」(J.ナイ)正しいとされる。

 翻って戦後日本は、高度経済成長の下で民主化を進め、第二次大戦前の地政学的対立・抗争の時代から脱却して、ポストモダーン的、平和国家を築いてきた。この意味で日本の先進性は、他国の模範となるべき財産である。もし日本がこの貴重な財産を忘却して、一昔前の対立抗争の時代に沈潜するならば、それはヘーゲルの言う「province」(フランス革命で切り開かれた世界から取り残された地域)の地位に逆戻りすることを意味するであろう。ミードも言うように、中国がpost-historicalの時代に移行するまで、険しい道のりが控えているのであれば、日本の対中政策は、その道のりの地ならしを手伝うことに目標を定めるべきである。ちなみにJ.Ikenberryは、ロシアや中国も、ポストモダーン的行動をもとっているとの趣旨の論考により、ミード論文に反論しているが、見方がややあまいのではないか。
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