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2014-08-01 14:25

尖閣諸島に見る「法理」よりも「メンツ」重視の中国

中兼 和津次  東京大学名誉教授
 尖閣諸島の国有化直後、中国は日本に対して激しい反発を見せているが、唐家璇(元国務委員、元外相)がいうように、直接的契機は2012年7月のAPECウラジオストック会議で、胡錦濤主席が野田首相に国有化の閣議決定を止めるように強く求めたのに対して、野田氏が帰国後すぐに閣議決定に踏み切り、そのことが「中国のメンツを潰した」ことにあるようである。このことは、その後私の中国における古くからの知人からも聞かされたので、決して唐氏一人の解釈だけではないのだろう。

 日本からすれば、尖閣諸島の国有化は私人の手から国の手に島の所有権を移したに過ぎず、日中間の法的関係には全くなんの変化もないのである。しかも、私有地だった島は諸島の一部にすぎず、そのほかの島はもともと国有地だったという。ところが、中国の「国有」の解釈は全く異なり、ちっぽけな私人ではなく、強大な国家が所有したことは、「現状を著しく変更する」行為だという。彼らにとっては、法、あるいはロジックよりも「メンツ」の方が重要なようである。

 その後、ことあるごとに、中国の首脳、たとえば温家宝首相は「尖閣諸島(中国名釣魚諸島)は、歴史的にも、国際法理からいっても、中国固有の領土だ」と主張しているが、無主地の「先占」と実効支配の原則を盾にすると、尖閣諸島が日本の領土であることは、「国際法的に」明明白白だと思うのだが、中国のいう「国際法理」とは一体何なのだろか?恐らく、カイロ宣言やポツダム宣言を「根拠」に、台湾に付属するはずの尖閣諸島は、台湾とともに中国に「返還」すべきだというのだろう。しかし、これらの宣言のどこにも尖閣諸島は出てこないし、返還するのなら元来法的に尖閣諸島が中国のものだった、言い換えれば日清戦争以前、つまり日本が実効支配し始める以前に清があの無人島を、地図の上ではなく、現実に領有(実効支配)していなければならなかったはずだが、その事実は全くない(詳しくは斎藤道彦『日本人のための尖閣諸島史』双葉新書、2014年刊参照)。

 もし中国が国際法的に尖閣諸島の領有権を主張するなら、国際司法裁判所に訴えればいいはずで、そうしないのは彼らの「法理」と国際法が違うからであろう。日中の国際法学者、それに欧米やアジアの国際法学者も参加して、この問題について国際シンポジウムを開き、真剣な議論をすればいいと思うのだが、果たして中国側は参加するだろうか?
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