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2014-07-28 10:32

(連載1)スンニ派とシーア派の相違の由来

河村 洋  外交評論家
 去る6月21日に放映されたNHK「ニュース深読み」のイラク特集で、スンニ派もシーア派も同じイスラム教で違いはない、と言われたことに私は驚愕してしまった。そのようなものは消極的平和主義による甘い願望に過ぎない。現代の政治的文脈では、シーア派とスンニ派の亀裂は国家間および民族宗派間の衝突に重大な影響を与えている。しかし戦略家や外交政策の学徒にとって、神学上の詳細に立ち入ることはそれほど有益とは思えない。よって、歴史的背景と宗教的行動の初歩について述べてゆきたい。

 広く知られているように宗派分裂の起源は第4代カリフのアリとムアウイアの抗争に遡る。アリの死後は正統カリフに代わってムアウイアが設立したウマイア朝が支配権を確立した。その後はイスラム社会の少数派が「アリの後継者こそカリフの地位の正当な継承者だ」と主張して、ウマイア朝の支配に抵抗した。シーア派を形成したのは彼ら少数派で、多数派はスンニ派を形成した。スンニ派とシーア派の分裂を決定づけた事件は、680年のカルバラの戦いである。現在のイラク中南部にあるクーファのシーア派からの要請に応えて、アリの次男フサイン・イブン・アリはウマイア朝のヤジド1世に対して決戦を挑んだが、フサイン側が全滅という結果に終わった。

 カルバラの戦いは両宗派に深い心理的影響を与え、シーア派の宗教的アイデンティティーを強化した。第一に挙げるべき点はシーア派とイラン(ペルシア)の緊密な結びつきである。シーア派のフサイン・イブン・アリは、ササン朝ペルシア最後の国王ヤズデギルド3世の王女シャハルバヌとの婚姻により第4代イマームとなるアリ・ザイヌル・アビディンを儲(もう)けたということである。よってカルバラの件をシーア派の視点で解釈すると、中世初期のフサイン・イブン・アリの後継者達はササン朝王家の血を引いていることになる。

 イラン人は16世紀に自分達のサファビー朝を立てるまで長年にわたってアラブ人、テュルク人、モンゴル人などの支配を受けたが、彼らはシーア派への熱心な信仰によって国民的アイデンティティーを保ち続けた。アラブ人によるペルシア征服によって失われたイランの国民的一体感を取り戻すために、サファビー朝はシーア派を国教とした。イラン国外ではシーア派は、ペルシア湾岸地域、イラク南部、レバノン、アフガニスタンのハザラ人居住地域などに広まっている。こうした地域に住む人々は文化的にも精神的にもイランと深いつながりがある。一例を挙げると、イラクのアリ・アル・シスターニ大アヤトラはイラン出身で、彼の姓もイラン南東部のシスタン地方に由来している。
(つづく)
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