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2014-07-28 02:53

(連載1)集団的自衛権に求められる冷静な議論

河東 哲夫  元外交官
 7月1日の閣議決定は、一部のマスコミや政党によって、「徴兵制への道」であるかのように喧伝され、無党派層も安倍支持を控え始めている。1960年岸内閣による安保改定が、実際には米国の日本防衛義務の明確化をはかる等、1951年の第1次日米安保条約が米国による日本占領を実質的に継続するだけに近かったのを改善したものであったにもかかわらず、これは対米従属強化、自衛隊の海外派遣につながるものであるとの見方が国内に広まってしまったのと類似している。但し、日米安保の地理的範囲(漠然としているが)を越えて自衛隊を派遣することについては、歯止めをかけておく必要がある。

 集団的自衛権は、国連憲章第51条にも明記されている国家の権利なのだが、内閣法制局は日本国憲法第9条第2項が「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と書いてあるのにひっかけて、「日本は権利を持つが、行使はできない」という解釈を長年奉じてきた。そのことで法制局をなじる向きもあるが(憲法第9条の下でも個別自衛権は行使できるのに、国連憲章で認められている集団的自衛権をなぜ行使できないのか、というわけである)、自衛隊の前身である保安隊を朝鮮戦争に出動させるよう求めたダレス特使に対して、吉田総理が、憲法第9条を楯にこれを断った時から、論理的には当然の解釈であったと言える。因みに、政府がその解釈を変える時、それが憲法違反かどうか審査する最終権限を持つのは法制局ではなく、最高裁判所である。

 ところで、その吉田総理なのだが、豊下楢彦の『安保条約の成立』(岩波新書)を読むと、日本の独立回復に備えて第1次日米安保条約締結の交渉が始まった当初、米国は在日米軍基地の存続確保に焦点をしぼってきた。武装解除したばかりの日本に防衛能力があるとは認めず、米国が在日基地を使用する権利を得る代わりに、恩恵として(義務としてではなく)日本を防衛することも「できる」という立場を取ってきた。だから、1951年の第1次日米安保条約第1条は、「(米国の)軍隊は、・・・外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる」となっている。

 日本政府は当初「これでは対等な安保条約にはならない。国連憲章第51条がお墨付きを与えている集団的自衛権に基づき、日米が対等な立場から日本防衛に当たる条文にしたい」と考えたが、米国にはねつけられた。当時は、何も武力を保有していなかったのだから、それも当然だった。そして日本政府の要求は、第1次安保の前文に「日本国は、武装を解除されているので、・・・・・固有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。・・・・・平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している」との痕跡を残すだけとなった。吉田総理も、おそらく朝鮮戦争に引きずり込まれる危険を察知していたのだろう。第1次安保締結交渉では日本側の要求を引き下げ、「弱い日本」をことさらに演出した上で、それを逆手に憲法第9条を盾に取り、ダレスの朝鮮戦争への参戦要求を拒絶したのである。つまり、自ら集団的自衛権を行使しないとし、その根拠を憲法第9条に求めたのである。それは、憲法の法的な解釈と言うよりは、朝鮮戦争への参戦を断るための政治的方便に近かったと言えよう。(つづく)
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