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2014-07-13 14:41

(連載2)日米ガイドラインの今後

角田 勝彦  団体役員、元大使
 しかし、政府がより重視しているのは政治の動向であろう。7月14日衆院予算委、15日参院予算委における集団的自衛権の集中審議を皮切りとする国会審議は多数の力で押し切るとしても、国民の反応、特にそれが具体的に表明される選挙は重視せざるを得まい。7月6日安倍首相が「グレーゾーンから集団的自衛権にかかわるものまで、幅広い法整備を一括して行っていきたい」と記者団に語り、十数本の関連法案改正の来年の通常国会への先送りを示唆したのは、世論調査における内閣支持率の低落(読売新聞社が7月2~3日に行った世論調査で支持率が初めて5割を切る)が一つの原因とされる。政権内にはこの状況で臨時国会において法案審議を強行すれば、世論のさらなる反発を招くという警戒感も出てきた。今秋には福島、沖縄両県知事選も控えている。来春には統一地方選もある。

 このように関係法案改正整備は、しばらく後になりそうである。改正の内容も内閣支持率や地方選挙を含む世論の動向、国会審議の動向、司法の判断等によっては、当初政府案より限定的なものになることが予想される。よって外国への説明なども急がない方が良さそうである。ベトナムなどでの政府の独走は空約束になりかねない。とくに対米関係が重要である。同盟国の対価を要求しない自発的動きで片務的軍事同盟が双務的軍事同盟になる例は珍しく、当然、相手国である米国は行使容認を歓迎している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(電子版)は6月30日、「日本はこれまでより重い軍事的負担を受け入れることになる」と報じている。

 7月1日、ヘーゲル米国防長官は「自衛隊がより広範な作戦へ従事することができるようになり、日米同盟をさらに効果的にするだろう」と歓迎する声明を発表した。またガイドラインの見直しを通じて「日米同盟に足りなかったものを補うことができる」と同盟強化への期待も示した。7月11日の小野寺防衛相との会談では「(説明された閣議決定を)強力に支持する。ガイドラインの画期的な形での改定が可能になる」と言明し、記者会見ではミサイル防衛などに言及した。ヘーゲル・小野寺会談では、ガイドラインについて年内に改定作業を終える方針も確認し、その骨格となる中間報告を作成することで一致したと報じられる。日本側は、中間報告作成時期は9月を想定している由である。

 関連法案が策定もされないうちに、それを前提にしたガイドラインを改定することには無理がある。とくに日本近海で展開する米艦の防護や、米国に向かうミサイルの迎撃など集団的自衛権にかかわるいわゆる8事例関係は問題である。対外的に集団的自衛権行使容認を既成事実化し、国内の反対を沈静化する考えかも知れないが、関連法案の改定整備が実現しないと空約束になる可能性がある。食言は国の信用を失墜させる。一内閣の問題ではない。悪のりすることなく慎重に行動すべきだろう。(おわり)
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