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2014-07-09 06:11

対中国で“日豪準軍事同盟”の色彩

杉浦 正章  政治評論家
 海洋進出をはかる中国に対する首相・安倍晋三の安全保障戦略が、日米同盟に加えてオーストラリアとの“準軍事同盟”の色彩を一段と強めた。極東における安全保障上の主導権は日米豪の連携を軸に強化・維持される方向となった。日豪共同声明は対中軍事けん制の色彩が濃厚に打ち出され、事実上日本が初めて安全保障上で米国以外のパートナーを獲得した意味合いを強めている。日米豪は今後共同演習などを通じて、欧州における北大西洋条約機構(NATO)と似通った一種の多国間連携を深化させることになるものとみられる。安倍はこの3か国連携の枠をインドにまで広げる日本・ハワイ・豪州・インドの「安保ダイヤモンド構想」にまい進する方針であり、中国の孤立化は濃厚である。

 共同声明は「21世紀のための特別な戦略パートナーシップ」と題された。あえて両国が「特別な」という文言を挿入したのは、“準軍事同盟国”としての関係を際立たせる側面がある。声明文では明らかに中国の覇権行為をけん制する文言が際立つ。「力の使用または強制による東シナ海及び南シナ海の現状を変更するいかなる一方的な試みにも反対する」と明記されているのだ。安倍にとっては第1次安倍政権以来進めてきた構想の集大成の形となった。既に安倍は2007年に豪州のジョン・ハワード首相との間で「国家安全保障共同宣言」に署名している。安保関係強化を目指す共同宣言を日本が米国以外の国との間でまとめたのは初めてのことであった。その背景には豪州軍がイラク・サマーワに派遣された自衛隊の安全確保に貢献したことや、大災害での日豪協力などの実績があった。

 首相アボットは中国が最大の貿易相手国であるにもかかわらず、日本との連携に踏み切った。その発言からアボットの意気込みが分かる。記者会見で「日本は1945年から一歩一歩法の支配のもとで行動してきた。日本を公平に見るべきであり、70年前の行動ではなく、今日の行動で判断されるべきだ」と言いきった。また「日本は戦後模範的な国際市民だった」と、日本の平和主義路線を賞賛した。明らかに中国国家主席・習近平が7月7日の盧溝橋事件記念式典で、「少数のものが歴史を無視し、侵略を美化している」と安倍を批判したことを念頭に置いた発言である。豪州は中国の海洋進出でシーレーン確保に危機感を感じており、北朝鮮の核ミサイルの開発にも強い懸念を抱いている。そのためには「法の支配」重視の立場から日本との協力が欠かせないことに加えて、米国との強い同盟関係も意識したのであろう。日豪首脳は「防衛装備品及び技術の移転に関する協定」に署名したが、豪州側の当面の期待は、日本の優秀な潜水艦技術の導入である。とりわけ4200トンの「そうりゅう」は大気に依存しない推進システムで2週間浮上せずに航行できる。非核、非原子力潜水艦では世界最高水準であり、建造予定の新潜水艦への技術移転を期待しているのだ。さらに両首脳は首脳同士の年1回の相互訪問や自衛隊と豪州軍の共同訓練円滑化の協定締結の方針でも一致した。

 これまでアジアの安全保障は米国が2国間の同盟を個別に結ぶことにより成り立ってきた。豪州はイギリスと並んで米国ともっとも緊密な同盟国であり、米国の要請に応じて朝鮮戦争、アフガン戦争、イラク戦争などに軍隊を派遣し、戦死者も出している。最近では米海兵隊がダーウインに駐留を開始した。将来的には司令部機能を備え、沖縄に次ぐ前方展開拠点にする方針だ。今後米国としては経済力ナンバー3の日本との同盟と、信頼関係のなり立っている豪州との同盟を軸に、アジアにおけるリバランス(再均衡)戦略を展開するものとみられる。日米豪は価値観も共通しており、シーレーンにおける共通利益も極めて大きい。ここで冒頭述べたように事実上の多国間防衛協力の流れが生じてくるのは間違いない。現在の南シナ海や東シナ海に臆面もなく進出する中国の覇権主義に対抗するには、かつて欧州がソ連にNATOを軸に結束したように、多国間の連携が欠かせない情勢になってきている。この3か国を軸に当面は中国進出の現実に直面しているフィリピンやベトナムとも連携を取りつつ、対中戦略が展開される流れとなろう。
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