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2014-06-24 06:48

“高村家康”、集団安保で公明を揺さぶって前進

杉浦 正章  政治評論家
 まるで猫が捕まえた鼠にじゃれついているように見えるのが、集団的自衛権の行使容認をめぐる自公調整だ。全くの自民党ペースで推移している。その象徴が集団安全保障措置への対応である。もともとやる気のないドラスチックな提案を行って公明党を揺さぶり、頃やよしと見ると撤回して、全体としての調整を前進させる。公明党幹部もこの揺さぶりに“真剣”に対応する振りをして、党内的には「自民党の“譲歩”を勝ち取った」とばかりに説得の手段として活用する。まさにキツネが化かせば、化かされた振りをして狸が仲間を説得する。これが政権与党内での調整の実態だ。6月20日に自民党副総裁・高村正彦が突然、武力行使を伴う集団安全保障措置への参加を持ち出したが、最初からこれはブラフだなと感じた。集団的自衛権の限定行使ですら戦後の安保政策の大転換となるのに、それに匹敵する新提案を本気でするわけがないと思ったからだ。高村は、集団的自衛権の行使でホルムズ海峡の機雷除去活動をしているときに、国連が集団安全保障による制裁を決めたら、撤退せざるを得なくなるという“スジ論”を展開した。確かに防衛、外務両省など政府部内にはそうした事態を危惧(きぐ)する声があるが、状況はあれもこれもというわけにはいかないのが現実だ。

 公明党はただでさえ党内説得が難航しているときに、さらなる難題を持ち出されたのだから憤った。または憤ったふりをした。これをみた自民党はわずか3日で撤回、閣議決定せずの方針を打ち出した。自民党は、関ヶ原の戦で洞ヶ峠を決め込んでいる小早川秀秋の陣に、しびれを切らした徳川家康が発砲を命じて、参戦を促したのと同じ揺さぶりをかけたのだ。こうして「公明小早川」は慌てて徳川方につく方向に踏み切ったのだ。高村も相当なものである。もともと国連が集団安全保障を決議しても、日本だけが集団的自衛権の行使で対処して機雷を除去することにクレームを付ける国はあるまい。非常事態への対処というものはそういうものであり、机上の空論より現実が先行する。さらに政府・自民党は高村が示した自衛権発動の3要件でも、公明党の反発を承知の文言をちりばめた。「他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆されるおそれ」がある場合の「他国」と「おそれ」である。案の定公明党は「他国」が日本以外の全ての国とも読めるし、「おそれ」は際限なく行使を広げると反発。結局「他国」は「密接な関係がある他国」、「おそれ」は「切迫した危険」などへ修正する方向だ。

 こうして「揺さぶっては前進させる」戦略が功を奏して、政府の集団的自衛権の行使限定容認の閣議決定は、来月1日か遅れても4日の閣議で行われる方向が強まった。一部世論の中にはこの集団的自衛権の行使について「戦争に参加する道を開く」などと極端な反対論が横行している。しかし、安倍が明言しているように「自衛隊が湾岸戦争やイラク戦争に参加するようなことは、これからも決してない」のである。集団的自衛権の行使は日本を除く全世界の国々が容認しているが、だからといって戦争に巻き込まれるという事はないのだ。イラク戦争の際も、北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているフランスとドイツは米国の要請に応じず、参加を拒否している。機雷の除去が参戦につながることは国際法上当然だが、日本の船舶が撃沈されてから、世論の高まりを待って除去しても遅いのだ。爆撃や他国への攻撃と違って、受動的な対応は当然認められるべき範疇に入るべきだろう。だいいち参戦ともなれば国家の非常事態であり、国会の承認が前提になることは間違いない。これまで通り歯止めはあるのだ。

 総じて集団的自衛権の行使は、抑止力を高め戦争の可能性を少なくするのが世界の常識だ。閣議決定に伴う法整備が焦点となるが、世界各国の軍事関連法案はしてはならないことを定めたネガティブ・リストであり、比較的簡単だ。しかし、日本の場合は、これが警察権行使の際にしてよいことを定めたようなポジティブ・リストであることが、問題を複雑化している。これは自衛隊が戦後警察予備隊として発足した経緯を引きずっているのだ。したがって、例えば邦人輸送の米艦警護などひとつひとつの事例を法制化しなければならないことになる。政府は秋の臨時国会前までに自衛隊法の改正を軸とする法制化を進める方針だ。
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