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2014-06-23 10:39

中国をめぐる国際関係の調整が課題

鍋嶋 敬三  評論家
 シンガポールで開かれたアジア安全保障サミット「シャングリラ対話」(5月30日-6月1日)で基調演説した安倍晋三首相が「力による国際秩序の変更は認められない」として国際法順守を主張、ヘーゲル米国防長官も同調したのに対し、中国人民解放軍幹部が反論、激しい論争が展開された。東南アジア諸国連合(ASEAN)の反応は巨大な中国経済圏に組み込まれつつある現実を反映して反中国一色ではない。東シナ海や南シナ海での中国の力を背景にした攻勢は沈静化どころか長期化する見通しだ。アジア太平洋地域の安定をいかに実現するか、中国をめぐる国際関係の調整が「シャングリラ以後」のアジア情勢の主題になることが鮮明になった。

 日本の首相がこれほど具体的に安全保障外交の内容をアジア太平洋地域の指導者に披瀝したことはかつてなかった。安倍演説は会場から大きな拍手を呼んだ。その「積極的平和主義」も、素直に受け取れば、理解されたはずである。安倍PUBLIC DIPLOMACYは成功したと評価してよい。ASEAN最大の国家であるインドネシアのプルノモ国防相は日本からの新造巡視艇3隻の無償供与を歓迎、「われわれには地域の平和と安定が必要だ」と語った。しかし、ASEANの反応は様々である。南シナ海で中国と激しく対立、米国と新軍事協定を結んだフィリピンのアキノ大統領は「中国を刺激しすぎないよう努めることも重要だ」と慎重な外交姿勢を示した(英エコノミスト誌/日本経済新聞)。シンガポールのリー・シェンロン首相は安倍首相との会談後の記者会見で、アジアでより大きな安全保障の役割を果たすという安倍外交を支持しつつも「日米安保同盟の枠内で」との条件を付けた。70年前、日本軍による占領を経験した華人国家として、日本の「独り歩き」を警戒する深層心理が働いていることをのぞかせた。

 南シナ海で現実に中国艦船と衝突、対立を続けるベトナムやフィリピン以外のASEAN 各国の多くは沈黙を守ったと伝えられる。最大の理由は中国との経済的結びつきがますます強まっていることにある。中国は貿易、民間投資だけでなく、港湾や道路などの戦略的インフラ整備にも大規模な借款を供与して、経済的に弱い国を取り込んできた。ロシアによる天然ガスの供給停止で首根っこを押さえられているウクライナの現実を目の当たりにして、どの国も影響力をますます強める中国とは対立を避けたい立場だ。しかし、アジア太平洋諸国の不安をかき立てているのは、中国の軍事・外交路線がどんな意図に基づいているのか、どのような方向に進むのか、全く不明瞭なためである。アジアが聞きたいのは、中国の本音である。習近平国家主席が来年の基調演説を受けて立つかが関心の的だ。

 コーエン米元国防長官は会議最終日に「アジアは米国にどんな役割を求めているのか?」と問い掛けた。米国にもっと大きな役割を果たしてもらいたいのか、それとも「もう十分」なのか、という問いである。それは中国との関係の裏返しでもある。オバマ政権の対外コミットメントに対する懐疑論が米国内で根強い中で、「リバランス(再均衡)」政策の大前提となる対中政策の軸足を明確にしなければ、アジア諸国の不安は解消されない。日本としては安倍外交の成果を踏まえ、中国を巡る国際関係の調整に向けて、次のような外交方針を進めるべきである。第一に、ASEAN 諸国との経済関係を強化し、各国の強靭性を高め、アジア外交の足元を固める。あからさまな中国包囲網作りは逆効果である。第二に、中国との関係改善のためには「法の支配」の基本原則を旗に立てて、国際社会の味方を増やすことが、遠回りだが、正攻法である。第三に、日米安保同盟の強化策(1997年の「日米防衛協力のための指針」の改定など)をスピードを持って具体化する。
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