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2014-05-16 07:14

吉田、岸に比べれば安倍の難易度は低い

杉浦 正章  政治評論家
 賽(さい)は投げられ、首相・安倍晋三はルビコンを渡った。戦後の安保概念の大転換となる集団的自衛権容認に向けて、憲法の解釈を変える方向へと大きくかじを切った。背景には中国、北朝鮮による極東の安保環境の激変がある。安倍の判断には、吉田茂の9条無視の自衛隊保持、岸信介の日米安保条約改訂に匹敵する国家の長期展望を見据えたリーダーシップが存在する。吉田は戦後のどさくさでワンマンぶりを発揮して切り抜け、岸は非武装中立論の社会党や一部マスコミとほとんど5分5分の戦いであったが、勝利した。いずれも戦後70年の平和と繁栄維持につながった。安倍の場合は、それに比べると7分対3分で勝てる有利な戦いである。なぜなら安倍には追い風が吹いている。追い風の第1は、何をするか分からない不気味な指導者による北朝鮮の核ミサイルの開発が最終段階に入っていることだ。一発でも東京に撃ち込まれれば、米の核報復で北朝鮮は壊滅しても、日本は致命的なダメージを被る。一方でラストエンペラーになるとささやかれている習近平も、そうならないためにあがきを続け、国民大衆の目を外に向け、海洋への膨張戦略を推進している。東シナ海はオバマの明確なるコミットメントで手ごわいとみたか、弱小国が群がる南シナ海へ矛先を転換。西沙諸島でベトナムと激突を開始した。南沙諸島でもフィリピン近くに滑走路を構築して戦略的な拠点を広げようとしている。まず南シナ海を制覇して、東シナ海に転じてくることは火を見るより明らかだ。

 こうした安保環境の激変を前にして、戦後70年の平和ぼけから脱せられない政党と朝日新聞を中心とするマスコミが存在することは、度し難い上に、驚きだ。安倍も記者会見で指摘していたが、反対派の主張「他国の戦争に巻き込まれる」は、安保改定の際の社会党と朝日の常套句であった。60年安保の時は朝日を先頭に在京全紙が猛反対で、朝日は「安保改定反対、岸内閣退陣」の論陣を張って、学生運動を煽った。ところが、6月15日に安保反対デモ隊と警官隊の衝突で東大女子学生・樺美智子が死亡すると、一転した。朝日はそれまでしゃにむに反対の論陣を張っていた論説主幹の笠信太郎らが主導して「暴力を排し、議会主義を守れ」という7社共同宣言を発するに至ったのだ。安保反対のトーンは急速に萎縮し、安保改訂は実現した。以後50年間日本は戦争に巻き込まれておらず、非武装中立論は今や見る影もなく、反対の朝日は改訂安保下で口を拭って、繁栄を享受している。

 マスコミは、最先鋭の東京に次いで「安倍内閣打倒が社是」(安倍)の朝日や毎日が真っ向から反対の論陣を張っているが、読売、産経などは推進論であり、割れている。野党に到っては、安保の頃の勢いなど全く見られない。野党は維新とみんなが賛成論であり、民主党は賛否が割れている。共産、社民、結い、生活が反対しても、クジラとサバの戦いに雑魚が混じるようなもので意味をなさない。問題は与党公明党であり、創価学会婦人部の影響を強く受けた代表・山口那津男が突っ張ってはいるが、「連立離脱はない」と述べている。世論の様子を見ながら先延ばしを図りたいのだろう。安倍はこの公明党対策が最大の難関なのだから、祖父の岸の命がけの苦労に比べれば、難易度は低い。臨時国会に法案提出が間に合う段階で決着をつければよい。それには3つの道がある。1つは、政策上の妥協を重ねて結論に持ち込むこと。2つは、見切り発車すること。3つは、山口を夏の改造で閣僚に起用して、懐柔することだ。

 見切り発車は、再来年の衆参ダブル選挙を考慮すれば早いほうがいい。しょせんは政権の蜜の味にすがる政党になってしまった公明党であるが、懐柔して選挙協力を再構築するまでには時間がかかるからだ。山口の入閣打診は「集団的自衛権の行使容認を法制化するに当たって、山口さんの知見を借りたい」と持ちかければ、山口も悪い気はしないだろう。世間体があるから四の五の言うかも知れないが、結局“落ちる”のではないか。落ちなければ、入閣を現在の1人から2人にする手もある。田中角栄ならおそらく使う手であろう。安倍の記者会見を見たが、秘密保護法における混乱の学習効果が如実に現れていた。作戦も練っていた。安保法制懇に集団的自衛権の行使容認に向けての全ての選択肢を提示させ、それを安倍が絞って選択する形にしたのだ。例えば報告書に「地理的限定は不適切」とあるのに対して「湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは決してない」と否定。報告書が「多国籍軍の参加に憲法上の制約はない」とあることに対して「こうした提言を政府として採用できない」と却下した。これに対して反対マスコミの雄・朝日は5月16日付社説で相も変わらず「戦争する国になる」とか「日本が攻撃されないのに参戦することになる」などと、秘密保護法の際と全く同じ“手法”を使って“風評”をねつ造している。この現行解釈固執は、まさに解釈あって国が滅びる路線であり、安保改訂の時と同様に敗北の憂き目を見ることは明白だ。
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