国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-04-03 11:23

(連載3)ロシアによるクリミア併合と日本の対露政策

袴田 茂樹  日本国際フォーラム「対露政策を考える会」座長
 日本の対露政策が、G7の他の国の対露政策にただ同調し追随しているだけ、という印象を与えてはならない。実際にはこれはきわめてデリケートな政策となるが、まさにこのデリケートな事態に対応するのが、外交というものである。

 安倍首相はプーチンと個人的な信頼関係を構築してきた。そして、プーチンは秋に訪日する可能性があるとも言われている。日本がG7の対露政策に追随したなら、北方領土交渉を進展させる絶好のチャンスを潰してしまう、という見解がわが国にはある。この前提となっているのは、プーチンは北方領土問題で何らかの譲歩を念頭に置いている、あるいは、日ソ共同宣言を超えて、国後、択捉の交渉も真剣に考えている、という考えだ。はっきり言うが、これは幻想である。

 ロシアではプーチンの支持率は近年低下し、大規模な反プーチン・デモなども起きる状況になっていた。プーチンの政治基盤は大国主義的ナショナリズムであり、「クリミアの併合」によってロシアにおいては熱狂的なプーチン支持の雰囲気が高まった。ナショナリズムの心理を大いに満足させたからである。このような状況下で、プーチンが北方領土問題で譲歩することはあり得ない。クリミア事件が示していることは、主権問題の厳しさであり、またロシアと友好関係を強めれば、北方領土問題でプーチンが譲歩するという考えの甘さである。

 日本では、北方領土問題で「ヒキワケ」という言葉も使ったプーチンに対する期待値は高い。つまり、プーチンにとって日本は、実は訪問しにくい国なのだ。ロシアは、ウクライナ問題での日本の対応を、例えば4月の岸田外相の訪露や今年中のプーチンの訪日を延期する絶好の口実にするかもしれない。日本としては、そのことも当然覚悟しておくべきだ。ソチG8首脳会議中止の流れの中で、「プーチン訪日中止」の脅しに屈して、日本だけが単独で外相会談をすれば、日本の決意と姿勢は国際社会で疑われ、顰蹙を買うだろう。なお、3月30日に米露両国が第3国(パリ)で外相会談を行ったが、これはクリミア事件を問題とし、もっぱらそのことを議論するために行う会談だった。もし岸田外相がクリミア事件の前から予定されていた外相会談を予定通り4月に訪露して行うなら、それが意味することは、逆に「クリミア事件を問題としない」ということだ。たとえ付随的に触れたとしてでもある。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム