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2014-04-02 19:05

(連載2)ロシアによるクリミア併合と日本の対露政策

袴田 茂樹  日本国際フォーラム「対露政策を考える会」座長
 3月25日の、ハーグでのロシアを除いたG7の首脳会合では、「ロシアがウクライナに対してさらなる軍事侵略を行った場合、追加の経済制裁に踏み切る」とした。ここには、クリミアのロシア併合は既成事実として黙認する響きがある。それは、強制力を有さない国際法や国連の無力、すなわち最終的には力がものを言う国際関係の「生地の部分」の冷徹さを否応なく示している。全ての国際問題は話し合いや交渉で解決できるし、そうすべきだというリベラリストやオバマ政権の考えに、プーチンはシニカルな行動で返答した。これが国際社会の現実であり、われわれは、この現実を直視するリアリスト的認識の必要性を、改めて突き付けられたと言える。

 さて、日本の対露政策であるが、わが国はジレンマを抱えている。現在、日中、日韓、日朝関係がきわめて悪化し緊張している。この状況下では、日本がアジアで孤立しないために、またロシアを中国の対日政策(歴史認識や尖閣問題に関し)に同調させないためにも、ロシアと良好な関係を構築、維持することは戦略的に重要である。その意味では、安倍政権のこれまでの対露政策は必ずしも間違ってはいない。

 しかし、ウクライナ問題に関しては、まったく別の面がある。G7の中では、日本はロシアに主権と領土の統一性を侵害されている唯一の国である。つまり、ウクライナの痛みを真に共有できる唯一の国だ。したがって、今回のロシアの行動に対しては、日本こそがロシアの行動をきちんと批判する、最も正当な権利と義務を有する国だと言える。今、日本が言うべきことを言わないならば、日本が今後さらに他国から主権を侵害されたとき――それは既に現実となりつつあるが――いくら大声でそれを非難しても、国際社会の理解は得られないであろう。安倍首相が、「力を背景とする現状変更は決して容認できない。今回の事態は一地域の問題ではなくグローバルな問題だ」と強調したのも当然である。これは明らかに、中国および尖閣問題を念頭に置いた言葉だ。今わが国がロシアの行動に対して明確な発言と行動をしないなら、中国が尖閣への対応をさらにエスカレートさせても、それを批判する資格を失うことになる。

 つまりロシアに対しては、大きな枠組み、すなわち長期戦略としては良好な関係を構築しなくてはならない。しかし、個々の問題に対しては、必要な時には厳しい発言や行動をとるという、メリハリの利いた対応が是非とも必要だ。そのためには、当然のことながら、一定期間の関係悪化や相応の痛みも覚悟する必要がある。どこにも痛みが出ない形で、主権問題を主張するということはあり得ない。(つづく)
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