国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-03-26 06:57

習の楔に対して、3国会談が楔を打ち返した

杉浦 正章  政治評論家
礼記(らいき)の「不倶戴天(ともに天をいただかず)」の状況は打開できたが、史記の「恨み骨髄に入る」はまだまだ解けそうにない。これが、日米韓首脳会談の本質だろう。3月26日開催された約50分の会談では東アジアの安保情勢が中心議題となり、北朝鮮問題を中心に、北東アジアの安全保障について緊密な連携の基に協力していくという認識で一致した。北の危機という共通項が日韓打開への糸口となった。就任以来1年半にわたって対話ゼロであった日韓首脳が、歴史認識というのどに刺さったとげには触れず、まがりなりにも対話をしたことになる。米大統領・オバマが、嫌がる大統領・朴槿恵をテーブルにつけたことは、北朝鮮に対するけん制になることは当然だが、日米にとっては3国首脳会談に懸命のくさびを打ってきた中国国家主席・習近平への巻き返しでもある。オリンピックではないが、集うこと自体に重要な意義がある会談であった。

 核サミットの場は、G7によるロシア非難の場と化したが、極東情勢をめぐっても日中韓で冒頭からすさまじい暗闘が繰り返された。まず先手を打ったのは習であった。朴をなんとでも取り込もうと、伊藤博文暗殺の安重根記念館建設で「私が指示した」とすり寄った。元より反日で凝り固まっている朴は、ころりと取り込まれて、ここに「中韓歴史認識共闘」が実現するに至った。日米韓首脳会談へのくさびであることは言うまでもない。これに対して安倍は、ウクライナ情勢をフルに活用した。その発言はプーチンに向けたと言うより、習近平に向けたものという色彩が濃厚である。安倍は記者会見で「ロシアによるクリミア併合は明らかに国際法違反であり、力による現状の変更は断じて許してはならない」と言明した。「力による現状変更」は中国の尖閣侵犯で常套句として使っているものであり、明らかに中国を意識した発言だ。これに加えて安倍はダメ押しの一撃を放った。「日本や東南アジアの友人たちにとっても人ごとでは済まされない。対岸の火事ではない」と言明したのである。これは中国を名指しこそしないものの、南シナ海で圧迫を受けるベトナム、フィリピンの窮状と、尖閣で軍事圧力を受け続ける日本の状況を訴えたものだ。この習と安倍のプロパガンダ合戦ともいえる勝負は、明らかに安倍の優勢勝ちであろう。なぜなら世界の国々は100年前の歴史認識で踊らされるほど甘くはない。今そこにある脅威の訴求力は、本来学者に任せておけば良い歴史認識でのプロパガンダを圧倒する力を持っている。とりわけ東南アジア諸国にとって見れば、よく言ってくれたという発言であろう。

 一方で朴の“言いつけ外交”も依然衰えを見せなかった。懲りない朴は3国首脳会談が確定しているにもかかわらず、25日付の独紙フランクフルター・アルゲマイネとのインタビューで「日本の一部政治指導者が慰安婦問題などで韓国国民の心を傷つけ、韓日関係を阻害している」と強調するとともに「日本はドイツに学ぶべきだ」述べたのだ。朴得意の被害者を装って訴えているが、こうした訴えが果たして世界世論に対してインパクトがあるかどうかは疑問となってきた。米欧やアジアの識者は戦後における日本の平和外交に理解を示しており、中韓がともに唱えるように安倍が突然変ぼうして軍国主義に日本を戻すなどと言う荒唐無稽なこじつけには踊らされないだろう。ウクライナ情勢の緊迫でG8が消滅し、「東西冷戦再来」が言われる世界情勢は、「老婆の繰り言」に耳を傾ける余裕もない。しかし朴の「恨骨(うらこつ)」路線は、継続する。その姿勢は紛れもないポピュリズムである。慰安婦に名を借りた大衆迎合路線であり、たちが悪いが一度吸った麻薬のようになかなか止まらない。

 こうした中での3国首脳会談であったが、まず、張成沢粛正で予測が困難になった北朝鮮情勢をめぐって意見を交換した。冒頭、オバマは「アメリカと日本、韓国との同盟は、平和と安全保障を支えるものだ。北朝鮮の脅威に対して3か国は、揺るぎない体制でこれに応えていくことを示してきた。外交的、軍事的にこのような協調を強化したい」と3国連携強化の必要を強調した。これに対し朴は「3か国のより緊密な協力の必要性が高まってきた。3人で意見交換を行うこの機会は非常に意味がある。北朝鮮の核問題は地域の平和と安定に対する重大な脅威であり、3か国を含めた国際社会が対応していくことが重要だ」と応じた。3国会談を「非常に意味がある」と強調した点は確かに「一歩前進」と言える。安倍は「北朝鮮が核・ミサイル問題、さらには拉致問題や離散家族の問題など人道問題について、前向きな行動を取るよう、3か国でしっかりと協力していきたい」と述べ、会談の意義を強調した。会談は全体として北の核とミサイルに対する危機感という共通項を“活用”して、狭いながら突破口だけは開き得た形となった。

 オバマにしてみても、日韓の対立は、対北戦略ばかりでなく、対中戦略にとってもマイナスである。朴の過度なる対中傾斜は、中国の誤算を招き、尖閣問題などで軍事行動に出る危険を伴うものである。米国の大戦略は沖縄・尖閣・台湾・フィリピンと続く第1列島線の内部に中国を封じ込めるところにあり、同盟国韓国による過度なる中国傾斜は食い止めなければならない。習のくさびに対して、3国会談がくさびを打ち返したというのが、会談の意義であった。安倍は歴史認識で凝り固まった朴の固いカキの殻をこじ開けることに成功はしたものの、「日韓友好」にまでこぎ着けるのはまだ容易ではない。今後経済、文化の交流を促進して、慰安婦問題などでも率直に話し合い、さらなる朴の軟化を図るしかあるまい。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム