国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-02-22 15:23

イラク、シリアで猛威を振るうアルカイーダ系組織

川上 高司  拓殖大学教授
 イラクのマリキ首相はついに国際社会へ助けを求めた。イラク西部のアンバル地方をアルカイーダ系過激派組織が制圧、その勢力をじわじわと拡大しつつある。2月15日にはバグダッドでもシーア派居住地に近いところで自爆テロが続発、北部の街でも爆弾テロが起こっている。もはや犠牲者の数のカウントは意味がないほどに情勢は悪化しつつある。この国家の危機にマリキ首相は「国際社会が黙って見ているだけならば、闘いは続き、やがてテロリストの王国が生まれる」と世界に向かって悲痛な訴えをした。国連のバン事務総長はマリキ首相に「アンバル地方のスンニ派指導者たちと政治的に協力して対処するように」とのアドバイスを送ったが、マリキ首相は協力には消極的である。

 イラクで猛威を振るっている過激派組織はISISまたはISILという。Islamic State in Iraq and Syria またはIslamic State in Iraq and the Levant の頭文字をとったものである。イラクとシリアの国境にまたがってこの地域に厳格なスンニ派国家を樹立しようという目的を持ったグループである。シリアでも勢力を伸ばし、おなじアルカイーダ系グループのアル・ヌスラを凌駕して、いまではシリア内戦の主流となっている。イラクではシーア派やシーア派政権寄りのスンニ派を標的として冷酷な攻撃を続けている。

 このイラクとシリアの国境地域にスンニ派国家が樹立されれば、シーア派であるイラン、シリア、イラクにとっては大きな脅威となる。また、アルカイーダ系組織の支配する国家となれば、アメリカにとってもとうてい認めることはできない。同じスンニ派であっても、かれらとは一線を画するクルド人自治区やトルコにとっても脅威となる。ロシアにとってもイスラム過激派国家はとうてい許容できない。イラクの危機は国際社会全体の問題となりつつある。

 アメリカは、イラク政府に対して武器などの支援はしても、派兵に踏み切る意志はなく、情勢を静観している。だが、このISISの動きはシリア和平にも影響を与える。イラクからISISを追放すれば、かれらはシリアへと押し戻されて、シリアの内戦が激化する懸念があるからだ。イラク問題もシリア内戦も単独では解決しないということだろう。だが、希望もある。アメリカは核問題をめぐってイランと交渉中である。周辺国の協力を得られる環境は整いつつある。オバマ大統領の中東政策は難しい舵取りを迫られている。イラク戦争の戦後はまだ終わっていない、ということを改めて思い知らされる。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム