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2014-02-14 12:18

オバマのアジア外交再始動

鍋嶋 敬三  評論家
 オバマ米大統領の日本などアジア4カ国歴訪が4月下旬に設定された。2013年秋、財政危機のためアジア歴訪を中止、中国に点を稼がれる外交的失策を演じた。今回は失地回復の旅である。日本、韓国とは北東アジアの同盟国としての関係強化、マレーシア、フィリピンは南シナ海で対中国紛争を抱える両国へのてこ入れの意味がある。ミサイル、核兵器の開発を進める北朝鮮の軍事的脅威、海洋や空域で一方的な現状変更を進めようとする中国の拡張主義をにらんだ戦略外交の展開である。安倍晋三首相は年明け早々、懐刀の谷内正太郎・国家安全保障会議事務局長を、さらに2月初旬に岸田文雄外相を相次いで訪米させ、ライス大統領補佐官、ケリー国務、ヘーゲル国防両長官らオバマ政権の安全保障、外交中枢と会談を進め、首相の靖国神社参拝できしんだ日米関係の修復に全力を傾注した。

 中国の軍事的脅威にさらされている尖閣諸島について「日本の施政権下にあり、日米安全保障条約の義務を守る」「中国が設定した防空識別圏(ADIZ)は認めない」との明確な言及が両長官からなされた。中国寄りと目されてきた国家安全保障会議(NSC)のメデイロス・アジア上級部長も同様の見解を最近の講演で明らかにしており、大統領のアジア歴訪を前にした政権の「統一見解」ととらえられる。アジア太平洋外交の実務を担うラッセル国務次官補が下院外交委員会アジア太平洋小委員会(2月5日)で、大統領のリバランス(再均衡)政策について詳述した。同氏は「中国包囲論」は取らないとしつつ、「対中国戦略のカギは米国の安全保障同盟の強さにある」と断言、「この枠組みがあってこそ、米国は中国と建設的にやっていける」と強調した。

 ラッセル次官補は東シナ海や南シナ海での中国の一方的な主権拡張の行動を抑制する3つの方策として(1)同盟および米国自身の安保態勢の強化、(2)友好国の防衛能力の強化、(3)中国との直接的関与、東南アジア諸国連合(ASEAN)、東アジア首脳会議(EAS)などへの関与を挙げた。同氏は前日の記者会見でも「米国の主要な手段は外交」と言い切った。継続的で活発な米国の関与、条約による同盟関係、多国間機構への積極的参加、日本、中国を含む強力な二国関係などすべての要素が「重要な安定的力として働く」としている。これにマイナスに作用するものに対しては米国は極めて敏感に反応する。中国のADIZ設定後直ちにB52戦略爆撃機を派遣、安倍首相の靖国参拝に対する「失望」声明がその例である。

 政府、自民党の中には参拝が米国に与えた影響を過小評価し、事後の説明で「理解を得た」と自ら納得する向きが少なくないが、それほど簡単ではない。米国こそ、靖国に合祀されているA級戦犯を裁いた極東国際軍事裁判の主人公であり、さらに日本が独立を回復したのは、その「裁判」をサンフランシスコ平和条約で「受諾」した結果であった。日中、日韓の抜き差しならない対立はオバマ外交の足かせになっている。再参拝で中韓の反日攻勢をさらに勢いづかせ、米国が日本を擁護できないような苦しい立場に追いやることは同盟外交として賢明ではない。安倍首相が国益上なすべきことは、財政危機、国防費大削減で「内向き」の米国をアジア太平洋に向かわせ続けることだ。そのためには自主防衛力の強化、同盟国としての役割と負担の増大(日米防衛協力の指針の改定、集団的自衛権の行使容認)など、安保同盟の実質的強化を目に見える形でスピードを持って取り組むことである。
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