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2006-12-29 11:47

麻生外相の「北方領土」発言について

林田裕章  日本国際フォーラム参与・主任研究員
 麻生外相は12月13日の衆議院外務委員会で、民主党の前原議員の質問に答え、北方領土を面積で半分ずつに分けるとした場合に言及、「択捉島の25%を残り3島にくっつけると、ちょうど50、50ぐらいの比率になる。大体そういう感じだと思う」と述べた。また、「いつまでも『4島だ、2島だ、ゼロだ』と言い合っていても埒は明かない。解決の方策を探る時期に来ている」とも指摘した。この麻生発言について、ここでは3つのことを指摘したい。

 第一に、たとえ仮定の話だとしても、北方4島が日本の固有かつ不可分の領土であるという事実を忘れたかのような言い方は、「ああそうか、日本政府は半分ずつでいいと考えているのか」という誤ったシグナルをロシアに与えることになる。日本国際フォーラムの参与・主任研究員でもある袴田茂樹青山学院大教授によると、現にロシアのマスコミは、「麻生は南クリル(北方四島)をロシアと折半するという原則にもとづき国境を画定することに賛成した」などと報じた(12月20日付け産経新聞)とのことである。ロシアには「北方4島は第二次世界大戦の結果獲得したものであり、日本への返還は必要ない」との声があるようだが、北方4島は、第二次世界大戦終結後の1945年8月27日以降ソ連が不法に占領したものである。かつ、第二次世界大戦の理念・原則を述べた大西洋憲章、カイロ宣言は領土不拡大を宣言し、日本の固有の領土を尊重する旨述べている。対ロ交渉は常にこの事実と原則を原点として進めなければならない。そのことを麻生外相は認識すべきである。

 第二に、この発言に対するマスコミの反応の鈍さである。翌14日の朝刊で麻生発言を報じたのは、私の知る限り、読売と日経のみだった。国益の根幹に関わる出来事だというのに、国会を傍聴している記者たちがそのことに気づいていない。日本社会全体の北方領土問題に対する認識と関心が風化しつつあるのかも知れないが、新聞記者も右に倣えでは、マスコミの使命あるいは存在意義が問われることになる。

 第三に、麻生氏のことに戻るが、氏は後日、読売などの報道について「あの発言は個人的見解に過ぎない」と釈明したという。外務省も「外務大臣の個人的見解だ」と説明している。外相が国会で話したことがどうして「個人的見解」なのだろうか。外相の答弁は外相の見解以外の何者でもない。日本の外交政策のトップの見解である。「個人的見解だから聞き流してくれ」という論理が通用するだろうと、仮に麻生氏や外務省が考えているとしたら、国会軽視もはなはだしいと言わざるを得ない。
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