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2014-01-09 00:50

(連載2)日本人と抽象概念

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 今回の靖国神社訪問に関する一連の安倍首相の言動は、合理性よりも「精神的雰囲気」が勝った意思決定のようにも思える。そうだとすれば、中村元が指摘した、日本人の歴史的な特性の発現である。しかし、すでに多くのニュースで伝えられているように、合理性の高い社会で育った外国の人々は、戦犯とされた人々も合祀されている宗教施設への参拝は奇異に映る。その結果、海外の政府やマスメディアから「不信感」が伝えられている。意図的に「尊崇」という言葉を使いわけているのではないか、国内に向けては「神をあがめる」気持ちを伝え、それによってナショナリズムを煽っておきながら、国外向けには戦死者への「感謝」だと伝えているのではないか、というわけである。

 今日、国際社会では「多文化共生」ということが言われている。また、外交ではソフト・パワーとして自文化の発信力が注目されている。哲学的思惟訓練の機会を逸してきた日本人は、価値観の「違い」を「違い」として理解し、合理性を前提に協調・協働するグローバル人材を育てることが、どの程度できるだろうか。一方、グローバル化の中で、豊富な感性的あるいは感情的な精神作用を持つ和語を用いてきた日本人のものの見方が継承されないということが起きないだろうか。

 欧米的な合理主義の思考が世界潮流の根底にはある。その流れの中で変化していく社会環境と世界の人々の意識を結ぶ道具として、高度通信・情報技術や高度交通システムが発達してきた。国際法や制度も創生されている。合理主義的思考が主流ではない異なる文化を持つ国でも、その潮流をうまく利用しているところもある。他方で、潮流と自国文化がぶつかり、激しい渦が生じているところもある。中東のイスラム世界は後者だろう。また、第2近代化が進んだ国でも、個人化やリスク社会に関する認識が不十分なまま、グローバル化の波を受け続けた場合、個人、企業、国家レベルで、国際レベルの秩序との間の混乱が起きる。

その結果、内部集団の狭い価値観では許容されている言動が、国際社会のさまざまな価値観と頻繁に摩擦を起こすことになる。2013年、シリア問題で見せたオバマ大統領の政策決定の過程はその一例といえる。また、今回の安倍首相の靖国神社参拝をめぐる出来事もそうだろう。「国益」の主張が目についた2013年であったが、シリアをはじめ紛争の中に生きる人々のことを思い浮かべながら、欧米的な価値観ともいわれる「人権」の問題について考えたい。(おわり)
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