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2014-01-02 08:58

(連載)年頭に想う:「世界の警察官」と積極的平和主義(2)

伊藤 憲一  日本国際フォーラム理事長
 私は、戦争史の観点から人類史を「無戦時代」「戦争時代」「不戦時代」に3分して、第二次世界大戦後の今日を、その核抑止と経済的相互依存の実態に鑑み、「不戦時代」と呼んでいる。かつて個人について「決闘の自由」が認められていた時代があった。国家が「戦争をする自由」を認められていた「戦争時代」の国家は同じようなものであった。しかし、近代刑法が導入されて以降、個人間の「決闘」は「私闘」として禁止され、不法行為の行為者に対する制裁は、公権力が代わって行うようになった。国際社会でも同様で、1928年の不戦条約以降は、国家の「戦争をする権利」は否定され、「自衛」と「制裁」のため以外には武力の行使が許されない「不戦時代」となった。

 不戦条約は、その後の国際連合憲章に引き継がれて、今日の「世界不戦体制」の原点となっている。2007年に上梓した拙著『新・戦争論:積極的平和主義への提言』(新潮新書)で私が強調したのは、そのような「世界の流れ」であり、それに積極的に貢献することこそが、日本の「平和主義」でなければならないということであった。確かに、「世界不戦体制」としての国際連合体制はいまだに不備であり、抜け穴だらけである。それに日本の安全保障を任せ切るわけにはゆかないのが現状であることは、認めざるを得ない。だからこそ、日米同盟の重要性がある。

 しかし、日米同盟の重要性は、日本の安全保障についてだけ言えることではない。私は前記拙著のなかで「世界不戦体制」について「その実態は、米国を中心とする西側先進民主主義諸国の不戦共同体(公共財としてのNATOや日米同盟)だ」と述べた。それが国際連合体制の不備を補完して、初めて「世界不戦体制」は機能しているのである。サダム・フセインのクウェート侵攻に対する制裁の延長線上で所謂「イラク戦争」が戦われた。「イラク戦争」が国連安保理決議1441号に基づく「軍事制裁」であったのか、それとも米国が恣意的に発動した「私闘」にすぎなかったのかは、ともかくとして、どれほどの人がイラクに対する「軍事制裁」を「イラク戦争」と呼ぶこと自体に内在する矛盾、すなわち、本来「公的制裁」であるものをあたかも「私闘」であるかのごとく見せつける報道の歪みと偏向を認識していたかは、疑問である。

 いずれにせよ、そのような背景において、米国がうんざりしたのはよく分かる。「そろそろ世界の警察官を降りたい」と言い出したのである。せめて日本は、そのことの意味を正確に理解して、これまで唱えてきたその「平和主義」という言葉の中味を再検討しなければならない。日本は、これまでの「消極的平和主義」(「日本だけの平和は可能であり、それでよい」とする一国平和主義)から脱皮して、新しく「積極的平和主義」(「世界全体の平和なくして、日本の平和なし」と説く世界平和主義)の旗を掲げなければならない。2013年の安倍政権は、歴代政権のなかで初めてその方向に向かって貴重な第一歩を踏み出した。2014年の年頭にあたり、安倍首相がこの第一歩をさらに第二歩、第三歩と着実に進めてゆくことを希望したい。(注)本稿は伊藤の個人的見解であり、組織としての日本国際フォーラムの見解を代表するものではない。(おわり)
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