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2013-12-02 10:32

試される「対中同盟」の強靱さ

鍋嶋 敬三  評論家
 中国が11月23日、突然公表した東シナ海での防空識別圏(ADIZ)の設定は、西太平洋地域から米国の影響力を排除し、習近平国家主席が目指す「中華復興の夢」実現のために打った一石である。韓国や台湾にも影響が及ぶ。直接の狙いは(1)沖縄県尖閣諸島に対する「中国の主権」を国際的に示す、(2)東シナ海の「内海化」、(3)南シナ海にも拡大の布石とする‐ことにある。これによって朝鮮半島西側の黄海南端から東南アジアに至るまでの広大な海・空域で軍事的な優位を確保し、米軍に対する地域への接近阻止、領域拒否(A2AD)を完成させるもくろみであろう。

 そのわずか3日前、米議会の米中経済安全保障調査委員会が人民解放軍の分析を含む報告書を提出した。注目点は(1)ウクライナから輸入した空母「遼寧」が2012年9月に就役、2025年までに国産空母2隻の配備計画がある、(2)潜水艦発射弾道ミサイルJL-2の原潜搭載により、中国近海から米本土への(核)攻撃が可能になる、(3)2013 年6月配備のH-6K新型爆撃機が長距離巡航ミサイルを装備でき、米領グアムを含む西太平洋全域の目標が攻撃可能になる、などである。今回のADIZ 設定は中国国防戦略上の「第1列島線」(九州‐沖縄‐台湾‐フィリピン‐ボルネオ島)を突破し、西太平洋への自由な出入りを目指すものだ。

 日米同盟の分断を図り、オバマ政権のアジア太平洋「リバランス(再均衡)」戦略が本物かどうかを試す狙いも隠されている。米国は素早く反応し、ケリー国務、ヘーゲル国防両長官が「東シナ海の現状変更の試み」と拒絶の声明を出し、グアム島からB52戦略爆撃機2機を飛ばすADIZ無視のデモンストレーションを行った。中国はアメリカの「虎の尾を踏んだ」かに見えた。ところが、11月29日に米国務省は米航空会社が中国ADIZ内の飛行計画を提出することを認めてしまった。日本政府が日本航空と全日空に対し飛行計画を提出しないよう指導し、民間航空の航路を決める国際民間航空機関(ICAO)理事会に緊急対応策を提案したばかりで、国際的な駆け引きの最中にはしごを外された形だ。日本政府は困惑、中国は欣喜雀躍していることだろう。「米国がADIZを容認した」と喧伝し、日米同盟にくさびを打ち込むことができるからだ。

 オバマ第1期政権のクリントン国務長官は2013年1月、尖閣諸島が「日米安全保障条約第5条の適用対象であり、日本の施政を害しようとするいかなる一方的な行為にも反対する」と明言した。今回、ヘーゲル長官が「第5条適用」を言明したのに対し、ケリー声明は「同盟国への揺るぎない関与」と述べるに止まった。日米同盟に対する米国の「本気度」が疑われては同盟関係が揺らぐ。バイデン米副大統領が12月2日に来日、日本のあと中国、韓国を歴訪する。日米両国は10月の外務、防衛閣僚協議(2+2)で安保体制の強化に合意したばかりである。安倍晋三首相と副大統領との会談は、米国政府が日米安保条約上の日本防衛義務を明確に宣言し、中国に対し日米同盟の強靱さを示す絶好の機会になるはずである。
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