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2013-11-14 06:59

8期3中全会は、矛盾露呈の両論併記

杉浦 正章  政治評論家
 習近平体制の動向に決定的な方向付けを行う第18期中央委員会第3回総会(8期3中全会)が閉幕した。その共同コミュニケを分析すれば、焦点の経済改革で「国有経済の増強」を最優先する習派と、民営経済の振興を目指す首相・李克強の“リコノミクス”派との激突の様相がありありと分かる。結果は日本の政治に似た「両論併記」の形となったが、総じて習派の優勢に終わった。その重要ポイントが中国版NSC「国家安全委員会」の設置である。同委員会を司ることにより習が、その抑圧的な共産党1党独裁体制を強化する流れが顕著となった。力で国民の不満を抑えつける習路線と、民衆の暴発の構図は解消されないままとなった。「鄧小平の改革解放路線選択以来の大改革」という鳴り物入りの宣伝は不発に終わった。

 とにかく日本の新聞・テレビの分析は、秘密会議だけあってまさに「群盲象を評する」感が濃厚で、一つとして会議を的確に切り取った報道がない。このようなケースは、1点に絞ってそれが成し遂げられたかどうかを見極めることが重要だ。その1点とは、民衆の不満に融和を打ち出すか、強権的姿勢を維持するかである。その不満の焦点である貧富の格差、民族間格差の是正に動いたかというと、逆であった。その第1の象徴が、国家安全委員会の設置だ。同委員会は中国の軍、警察、外交部門などの情報・安全保障・宣伝部署などを統合する組織であり、共産党1党独裁体制維持の中核になるものとも言える。各地で起こる暴動が共産党の存立にとって取り返しのつかない様相になるのを懸命に抑えようとする焦りの現れとも言える。1997年に江沢民が設置しようとして党内の反対にあって断念した経緯があるが、今回実現したのはなぜかと言えば、統一的な体制を作らなければ頻発する治安問題に対処しきれないからに他ならない。もちろん「国家安全」であるから、尖閣問題など海洋進出路線の中核ともなるものだろう。

 次の焦点は経済改革である。爆発寸前の様相を呈している民衆の不満をどうそらすかだ。そこで問題提起したのがアベノミクスを真似してマスコミが名付けた「リコノミクス」を掲げる李克強だ。国有経済主導型経済からの脱却を目指して、市場経済重視の方針を打ち出そうとした。中国政治のの3大派閥は胡錦濤・李克強の共産主義青年団、習近平の太子党、江沢民の上海閥に大別できるが、その李が主張するのは、従来の国営企業と共産党だけが儲かる体制を一変させ、市場経済をより一層導入して社会的な矛盾の是正に動こうとするものである。胡錦濤の行った、国民や民族の間でバランスのとれた社会である、「和諧社会」への回帰を促すものでもある。ところが発表された共同コミュニケでは「市場原理が資源配分の中で決定的な役割を果たす」と述べる一方で、「公有制を主体とし、国有経済に主導的な役割を発揮させる」と、まさに矛盾露呈の両論併記型となっている。

 これは3中全会で李克強路線に対して既得権擁護に固執する保守派から強い反発が出された事を意味する。今や国有企業と共産党地方政府は35年間の改革開放政策で「巨大な企業体」へと変身し、利益をむさぼり、貧富の差は拡大して、民族間格差とともに中国社会最大の矛盾の根源となっている。汚職の泥沼はとめどもなく深く、共産党の支配下にある司法は機能しない。ここにメスを入れない限り、民衆の不満は募りこそすれ、治まる流れにはならない。コミュニケは司法改革にも言及しているが、弥縫(びほう)策であり、根本的な解決に至るものではない。党の介入を禁ずるというポイントが成文化されていない。こうして中国社会は格差是正どころか、既得権重視の指導層の下に、内部矛盾は拡大の一途をたどらざるを得ない流れとなった。国有企業の独占と共産党員だけが儲かり、汚職の裁判は圧力で抑える流れである。

 この習近平体制再構築が今後の中国の外交・安保姿勢にどのように反映されるだろうか。恐らく習近平は尖閣問題で対日圧力をかけ続ける方向を担保しながらも、基本的には「友好」にかじを切りたい誘惑に駆られているに違いない。というのも、3中全会で提起された深刻な経済問題解決には、日本の投資や企業進出は垂ぜんの的であるからだ。既に政治の強硬姿勢とは裏腹に経済交流の側面は拡大しつつある。発表された自動車販売は日本製が躍進しつつある様相であり、大型経済使節団も受け入れる流れだ。安倍は、るる述べてきた中国の「弱い脇腹」を意識しつつ、どの時点で妥協するかに留意しなければなるまい。中国の主張する「尖閣棚上げ」は不可能にしても、筆者がかねてから主張しているように、「尖閣は『先送り』で“日中長期研究体制”を作る」しか道はあるまい。
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